転機の、7
半熟の目玉焼きに、こんがりと炙られたベーコンが数枚、重ねたレタスの上に載っている。添え物にはミニトマト二個とヤングコーン。朝食として実に整ったものがテーブルに並ぶ。いつも出勤ぎりぎりまで布団に入っている生活を送ってきたロウには人数分の朝食が揃えられたダイニングテーブルはあまりに眩しかった。
「アラ――いえ、ロウ君の好みがわからなかったから適当に作ったけど、目玉焼き大丈夫だった?スクランブルエッグのほうが好みなんだったら作り直すけど――」左京の控えめの声は朝の静けさによくなじんで響く。まだ名前の呼び方に慣れないらしく、ロウの前にアラタと言いかけていた。そういえば右京のほうはまだアラタ呼びだったことを思い出す。
「――いや。目玉焼きで大丈夫」
「ご飯が良い――?それともパンにする?」今度は右京だ。
「あ、じゃあ、ご飯で」
「アラ――ロウ君は卵は何派かね?」今度は神宮寺が塩と醤油を手に持って声をかけてきた。名前の呼び方にはやはり苦労させてしまっているようだ。昨日まではアラタで今日からはロウなのだと言われたら誰だってそうもなる。
「――え、と。じゃあ、醤油で」ロウが醤油を指さすと、神宮寺が「よっしゃ!」と小さくガッツポーズをした。
「これで佐藤家の均衡は崩れたぞ。醤油派が佐藤家の第一党だ」
「おじいちゃん今のはズルいよ。醤油か塩って二択にしてんじゃん。アラタは本当はあたしと一緒でソース派かもしんないじゃん」
「シンプルに塩胡椒派かもしれないです。――もしかするとケチャマヨ派かもしれませんし」
「左京!それはあんたの好みでしょう?二人ともアラタを誘導するとかひどくない?こういうのは正々堂々といかなきゃあダメよ」
「本当のところはどうなんだ?」
「本当は何が好きなの?」
「ソースだよ!なぁアラタ」
三人がほとんど同時に言葉を発したから、箸と茶碗を持ったままロウは大きく目をあけて固まってしまった。この家はいつもこんなにも賑やかなのだろうか?自分に気を遣っているような感じは見受けられない。
「――あ、ええと。僕はその、醤油マヨ派です」
「――醤油マヨかぁ~!それもわかる、わかるぞぅ!」
「――マヨ。万能」
「――うぁあああああ!また別の派閥が誕生したっての!?」
また食卓が混乱状態に突入した。左京がおずおずとマヨネーズを差し出してくる。左京の目玉焼きにはすでにその両方がかけられていた。
「ケチャップマヨも、いいよね」ロウが目玉焼きにマヨネーズをかけると、
「子供舌かよ!」と右京が吼える。
「ソースだって十分子供でしょ!?」左京が右京に喰ってかかり、
「日本人は、醤油よ。んー。この場合醤油を半分選んだロウは、和と洋のハーフということになるのか?」妙なこじつけを口にして、神宮寺時宗は箸を置いた。
「話は変わるのだが、実は儂、君の両親をよく知っているんだわ」
唐突だった。先刻までどこかおちゃらけていた雰囲気はなく、目の前の老人は「マジ話じゃ」ともう一度念を押した。
皆さまは目玉焼きはどのようにお召し上がりでしょうか。私は半熟でオリーブオイル+塩派だったりします。中には、しっかり中まで火を通す派の方や、そもそも火も通しませんよという方もいらっしゃるでしょう。変わった食べ方でこれぞ究極!なんておっしゃられる方おりましたなら是非お聞きしたいですねw




