表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/188

転機の、1

 ホテルを後にしてそこで初めて意外に時間が経過しているのだと知る。

 夜の闇が人気の少ない街の隙間まで入り込んでいて、まだかろうじて生きている不揃いに並んだ街灯を今にも飲み込んでしまいそうになっていた。

 ホテルを北上した先の公園を横切ると、時刻をきちんと刻んでいるのかどうか知れない時計がまさに分針をひとつ動かしたところだった。


 それが正しい時間であるならば、午後十時を過ぎたところらしい。

 公園に人の気配はなく、代わりに野生化したかつてのペットたちが夜行にまぎれて周囲を徘徊している。気配を上手く躱して公園を突っ切る。ミンケイの事務所まではここが何よりの近道であった。それにしても――と思う。自分が保護されたと思しき場所から月采女迦具夜の滞在しているホテルは軽く数キロあった。どうやって運び込んだのか、もはや今となっては訊く術はない。抱えて歩くほど逞しい腕を彼女はしていなかったはずだ。

 あらためて思う。謎の女、月采女迦具夜。神宮寺や丸目博士を先輩と呼ぶ彼女はいったい何者だというのだろうか。名前を告げればわかること――と彼女は言った。

 足が素直にミンケイの方角に向かっているのは彼女のおかげだ。頼るという選択肢は彼女が示してくれなければ選ばなかったことだ。

 時折、車のヘッドライトが公園脇の道を通った。光の通り方とエンジン音を体感するたびロウの精神はすり減っていく。都度、今通った車が空色のミニクーパーでないことを知って、ほっと息を吐く。

 このタイミングで鉢合わせをしたなら、きっと抵抗むなしく捕まってしまうかもしれない。

 ホテルで一時休んだとはいえ、まだ体調も気力も完全に回復はしていない。これからは運だけでどうにかなるといった余裕が出てくるとも思えなかった。

 公園を突っ切ったのには車が入り込めない場所を選んで進んでいるからにほかならない。車やバイクといった機動力がないのであれば、たとえ本調子でなくともロウが体力の面で迅速に後れをとるわけはない。仮にいざ走ることを余儀なくされる場面が訪れたとしても、五十過ぎの人間に追いつかれるような無様はよもやすまい。


 公園を抜けさえすればミンケイの事務所は目と鼻の先だ。知れず、足が早まる。


 公園や住宅地を縫った行動をとったことは遥ローエングリンにとって最良の行動にほかならなかった。遥迅速はいずれ戻ると踏んだアパート周辺に組織の人間を配していたし、時間の赦す限り車道及び歩道を張っていた。迅速の土地勘のなさが災いした事態であったが、ロウにとってはそのことが好転した。かくしてロウは無事にミンケイへと辿り着くことができたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ