邂逅の、11
遥ローエングリンが再び目を開けた時、真っ先に目に飛び込んできたのは美しく整った色白の女性の顔だった。普通真下から見上げた人の顔というものはどこかデッサンが狂った不細工な見え方がするものなのだが、こと彼女に関しては何ひとつ欠けることのない美貌そのままに映った。
意識をまっとうに戻した遥ローエングリン――ロウがまずしたことは、両手の自由と身体の欠損がないことを確認する作業だった。ばたばたと身体を動かす少年の姿に、謎の女はケタケタと、風貌らしからぬ笑い声をあげた。
「――まずは元気で良かったと言っておこうかしら?」
そう放つ彼女の言葉と笑いには「子供なんかに自分が何かするとでも思っていたのか」という余裕と、嘲りとは違う――しかしそれに酷似した感情が感じられた。ロウがムッとしたのは肌で感じたそれらを表面に出したからだ。彼女の言葉と言い回しも好きになれそうもなかった。
言いたいことは様々あったにせよ、それでも開口一番に彼の発した言葉は「助かりました」だった。
相手に対して阿ったわけではない。状況がどうあれ五体満足で拘束もされていないとあれば、まず先んじて礼を口にするのが礼儀だと、そう思ったまでのことだ。
女は満足気な笑みを浮かべて口の端を吊り上げた。
「言ったでしょう?佐藤先輩は昔馴染みなんです。そこで働いている貴方を私がどうこうして物事を荒立てたくはないんですよ。それに――」
「それに――?」
「貴方じゃないけれど、あの人たちは私も嫌いなんです」
あの人たち――と彼女が言った手合いは父の名を騙る迅速のことなのだろうか。だとするなら、薄々そうではないかと思っていた疑義が確定する。自分は迅速だけではなく、迅速を含むなんらかの組織に追われている――ということだ。
表情を、固める。
だとしても、目の前の女を完全に信用してはいけない。こちらを油断させて利をうかがっていないとも限らないのだ。手足を拘束していないのはそれ以外の方法で自分を御す手段がすでに組まれているからなのかもしれないではないか。
「どうしてそんな怖い顔をするのかしら」女が、慈愛ともとれる蕩けた表情で視線をロウに、繰る。
――え?
ロウは、自分が瞬間、惑うのを隠すことができなかった。目の前の女の表情に、視線が釘打ちされる。どうしてか女の目から視線が外しきれない。この視線をどこかで感じたことがある。そう記憶が伝えてくる。
なつかしささえ、覚えていた。正直、意味がわからない。
原作付きの映画を見る時、私はいつもシーンを言葉に置き換えるのですが時折自分の表現できるもの以上の映像が現れると閉口してしまいます。才能ってさw