邂逅、の4
「誰か来てたの?」小首をかしげて右京の顔色をのぞく左京。桃色のトレーナーに水色のスウェットを穿き、裸足に肌触りのよさそうなもこもこのスリッパ姿だ。右京に連れられて入ってきた月影アラタの姿を認めるや柱の陰に隠れてしまう。
「ちょっ!右京ちゃん、なんで月影君がいるのよっ」
右京は栗鼠のような反応を見せる左京の方に指を向けるや「な?家だと少し声のボリューム高いんだよ左京は」と悪戯っぽく笑った。
本当だ――。素直にそう思ったものの、アラタは口からその言葉を出すことはしなかった。
「ごぉめん、左京。アラタはさ、お間抜けにも休みなのにご出勤あそばされてたのさ。ね?ところで朝ごはんもう一人分頼めないかな?」
「――それは、別に、大丈夫だけど……」声が聞き取りにくい。普段職場で見せる左京の声量に戻っていた。
「だってさ!遠慮なく食ってってくれ」
「いや、やっぱり迷惑になるんじゃないか?僕は着替えさえできればいいから」てっきり朝食は右京が作るものと考えていたアラタは、突然降ってわいた左京の不遇に思わず遠慮の言葉を口にした。
「まあそう言うなって!左京はこう見えてダメなときはきっちりダメ出しくらわすんだからさ。逆に作るって言ったらちゃあんと作ってくれるんだよ」
「――いや、だけど――」
「だぁいじょぶ!大丈夫だって!」右京は遠慮するアラタにまったく怖じることなく背中を押して、強引に席に着かせる。
佐藤家の食卓には四つ椅子があった。言われるがままに座ったアラタはその椅子の数に妙な感傷を覚えた。
「なんだよ――変な顔してさ」右京がアラタの表情に違和感を覚えたのだろう、すかさず声をかけてきた。アラタの視界に、朝日を受けて背中に影を背負った左京が慣れた手つきで料理する姿と子供のような無邪気な表情をこちらに向けてくる右京が飛び込んできた。
アラタは、目を――背けた。
「なんだよもう。左京の飯は私が作るよりか遥かに美味いんだぜ?あたしの作る目玉焼きなんてこの前殻ごと入ってて怒られたのなんのって――カルシウムじゃんかなあ?」なにを察したのかは知れない。しかし右京はなりに察してそれ以上言葉を紡ぐのをやめた。
アラタが――普段誰とも争わないかわりに誰とも深く交流を持たない月影アラタが――誰憚らることなく、泣きながら左京の供した朝食を食べていたからだ。
押し殺す短い嗚咽があって、それをさすがの右京も遮ることはできなかった。
もう二年以上、孤独に食事をしてきた。母親を、彼は知らない。
それでも、家族団らんの食卓を彼が嘱望しなかったわけではないのだ。
寒い!寒ぅ~い!朝起きましたら雪降ってたんですけど!?
とはいえすかさず雪見酒に転じた私の適応力たるや!褒めてくれてもいいんだからねっw
皆さまどうぞお体にはお気をつけあそばれたし?w




