邂逅、の2
佐藤右京の登場は月影アラタにとっての僥倖だった。逆に目の前の女性にとって右京は完全に邪魔者であったらしい。一瞬だったが神経質な視線を右京に対して飛ばしていた。
「所長なら、留守ですよ?今日は朝早くから出かけてて。仕事の依頼か何かでしたら私が代わって伝えておきますけど」
初対面の女性に対応する右京の態度には余裕さえ感じられた。アラタのように初手で気圧されないのは彼女の生まれもった天分のなせる業であるのか。
「いえ。特に仕事の依頼というわけではなくて。久しぶりにこちらに戻ってきたので、挨拶がてら顔を見に寄っただけなの」女性はそう言ってクスリと笑った。ここまでの話の流れで笑えるようなタイミングはなかった。
「もしかして、博士の旧知かなにかですか?もしかして愛人さん、とか」
右京に笑顔こそ浮かんでいるが表情の隅々にあきらかなひきつりが見てとれた。アラタだけでなく右京もまた目の前の女がいわゆるまっとうな手合いでないことを肌で感じているのかもしれなかった。そうなると彼女の血統はすぐに火が着く。
ピリッとした空気が東京町田の片田舎、砂塵が旋風を巻きあげる地に流れる。
まさに一触即発。
佐藤右京は――なんのことはない。日課にしているストレッチをめずらしく晴れた青空を見ながら休日の屋外でおこなっていただけにすぎなかった。休みということもあってTシャツに動きやすい麻素材のホットパンツというラフな格好だった。ようやく体が温まってきて節々に血流が滞りなく流れるのを確認できた頃、休日にもかかわらず現れた月影アラタの姿を見かけた。声をかけようとした矢先、自身の薄着に気づいた右京がパーカーを羽織って庭先に戻ったタイミングがこれだ。
鼻の下伸ばしてみっともないったら――!
右京は自分ではさほど意識していなかったはずの月影アラタが、正体不明の美女を前に普段見た事もないような間抜けなやりとりをしているのを見て、カッと頭に血がのぼった。いたって冷静にかけたつもりの声は、もしかすると不格好に裏返ってしまっていたかもしれない。
だけどこの状況をただ傍観するのは違う――。正義感とも義務感とも違う感情で、気がついたら横から口を出してしまっていた。
どう見てもいいようにあしらわれている月影アラタを見ていられなかった。
――最悪にあざとい女!
それが佐藤右京が休日にミンケイに現れた正体不明の女に抱いた最初の感想だ。
良いように解釈するなら、それは女の直感の産物というやつだ。決して嫉妬などではない。
言い聞かせた。
年度末ですね。四月から新しい空気のもと様々な環境に変化していく自分と周囲を感じられる「節目」というやつです。学校や職場においてはニューカマーとの遭遇と生まれる新しい出会い。そして新しいアニメ。ハードディスクの容量が足りるか今から心配でなりませんW