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邂逅、の1

 月影アラタは軽いジョギングをすませた後でいつものように民間警備会社ミンケイの事務所のドアに手をかけた。安っぽいアルミドアが複数のカギによって施錠されている。

 「――ああ」と、そこではじめて今日がミンケイの休日であったことを思い出す。

 「そりゃあ開くはずはないよな」こんなことならもう少し走りこむ距離を伸ばせばよかった。着替えをする前提で出社したために替えの下着を持参してきてはいない。中のロッカー室に入ろうにも鍵がかかっているんじゃな――。そう思いながらももう一度ドアノブに手をかける。ガチャガチャと音がしてドア自体が壁から外れそうな振れ幅でがたつく。

 「これ、防犯的に大丈夫なのか?」思い切り蹴りとばしたら壊せそうな強度の入口は素人の月影から見ても不用心に思えた。仮にも巨大ロボットを所有している組織だぞ?

 施錠がされているということは所長は留守だということか。念のためマシンの格納庫に足を向ける。もしかするとマシン整備をしているのかもしれない。玄関右手に伸びるゆるやかな傾斜のスロープを下りると格納庫が見えてくる。しかし周囲には人影はなく、入口にはシャッターが下ろされていた。一般的な車庫用のシャッターを巨大にしただけのそれは、見た感じとても薄っぺらく頑強には程遠い。車庫横の入口にも施錠はされていた。

 着替えはどうやらあきらめるよりないな――そう覚悟してその場を後にしようとしたその時だ。先ほどまで月影が居たミンケイの玄関前に一人の女性の姿があった。

 横からの姿を垣間見ただけだったが、背筋がピンと伸びたその女性の姿勢からは日頃の生活態度の几帳面さが感じられた。だが大きめのサングラスに清潔感のある広つば帽、初夏の空のように青いワンピース姿は、汗と埃とオイルの臭いが漂うこの場所にはとても相応しくない格好ではあった。

 

 もしかして、客かなにかか――?


 普段の月影アラタであったら迷わず見てみぬふりを決め込む状況だったが、()()()()()()()()()()()()その場を素通りすることができなかった。

 「――あの?こちらに御用でしたら今日は休みですよ」

 意を決して声をかける。女性が月影の声に振り返ると、ふわりとスカートの裾が翻り黒く長い髪が風に踊った。

 見た感じ右京や左京と同じくらいの年の頃か――艶のある白い肌は帽子を避けて当たった陽光を白磁の美術品のようにキラリと弾いて返している。「――そうなんですね――」そう言ってサングラスを外したその女性の顔にはまだ幼さが残っている。しかし反面、彼女の仕草からは、見た目の幼さとは真逆の長年蓄積し洗練し続けてきた者の纏う隙のなさが感じられた。

 

 そのため、月影アラタが目の前にいるその女性に対して感じた第一印象は決して良いものではなかった。それどころか、彼女に声をかけるべきではなかった――そう直感が空気を震わせて彼に伝えてきたほどだ。


 「あなた、この会社の方?」女性は月影アラタに対して半ば突きつけるようなタイミングで言葉を放ってきた。言葉は丁寧で、声も張り上げるとは程遠い静かなものであったが「相手を逃がさない」確固たる意志のようなものが伝わってくる。蜘蛛の糸に巻かれた獲物でもあるかのように月影アラタはその場を立ち去るきっかけを完全に削がれてしまっていた。

 「そうです。ですが、僕はまだ何の権限も持たない新人で」訊かれてもいないことが彼の意思に反して口を吐く。目の前の女性の大きな黒い瞳から目が離せない。恐怖というより、この感情は畏怖に近いものだ。月影アラタは目の前の女性に完全に()()()()()()()()()()

 

 「そうなんだ。ご親切に」女性が後ろ手に腕を組んで月影アラタの方に近づいてきた。しかし彼の足はすっかりすくみきっていて、その場から一歩たりとも動くことを頑なに拒んでくる。


 「――ところで」彼女がそう切り出した瞬間だ。


 「あれ?アラタ君、その方は――もしかしてお客さん?」事務所のとなり、牡丹の垣根ごしに声がした。

 顔をのぞかせたのは佐藤次郎の孫娘、右京だ。

寒の戻りで桜の開花が停滞していますね。長い期間桜が見れることは個人的にはとても良いことだと思っていて、その分お酒がすすみます。夜の闇色に桜の花びらの色はよく映えてその透明感たるや幻想の空間に誘われてしまった錯覚を覚えるほどです。家の庭にも桜があればいいのにな、とこんな時ばかりは思います。もちろん庭でお花見ができるからに決まってるからですがw

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