ノーシェイプ、あるいはシェイプレスの事情、の7
ノーシェイプのコクピット部分を大きなペンチのような機械が両脇から挟み込むと、マレの体が内部でガクンと揺れた。マレがコクピットのモニター表示をフルモニターに変える。今まさに挟み込まれたコクピットがグイッと持ち上げられているのが見えた。床から離れていく感覚はジェットコースターのスタートに似ている。次いで、幾重にも繊維を編み込んだ黒光りするチューブが一本、コクピット上部に繋がれる。
「ドッキング、オーケー」チューブが無事接合された事を示す緑のランプが灯る。
「マレ、苦しくない?ちゃんとチューブからエア出てるか確認しなよ?コーティング中酸欠になったら笑えないんだから」そんなヘマはしない前提ではあったが、あえてダオはそう揶揄した。
「そしたらコーティング剤の中泳いで出るわ」
コクピットをガッチリ脇で挟んでいた機械が外され、軽い浮遊感があった。眼下にコクピットがすっぽり入る大きさの透明な容器があり、その容器にテラテラと波打つ液体が湛えられているのが見える。
「コレって、まんま『りんご飴』よね」
「棒は刺さってないけどね。マレ、スラスターにカバーして。このままコーティングしたらそれこそ本当に飴玉よ?」
了解。ボタンを押すとスラスター部分からにゅうっと尻尾のようなパーツが伸びていく。
伸ばしすぎ。今回は都市戦仕様なんだからその半分で良いの、とダオ。
「女は薄化粧で勝負ってワケね?」マレが軽口を叩く。
「アンタは女じゃなくて男でしょうに」
チューブが下に下がっていき、眼下に見えていた透明容器にコクピットが浸されていく。
トプん、という軽やかな音と、コクピットから出ている大量の小さな泡粒が一斉に上に向かって行く。
コクピットの全方位モニターが泡で一瞬完全に視界を取られる。ナノコーティングがプログラムされた通りにノーシェイプの外殻を形成していく様子がパネルに映し出される。パネルに作業終了までのおよその時間と進行具合が表示されている。が、あえてマレはダオに話を振った。
「人魚姫が人間になるまでどれくらい?」
「8分てとこかしらね。でも泡に包まれた人魚姫って死ぬ場合じゃなかった?」
「人間になる時ってどうなったんだっけ?」
興味ない、とモニターのダオの目が言っていた。
「ねえ、8分もかかったら怒られない?」
「そしたら『自分でやれ!』って管制官に言うわ」
マレの手元のパネルが作業終了まで「あと7分、進行具合16%」を示していた。




