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日流研の事情、の14(丸目長恵の場合、の7)

 「いったいどうしてこんなところに――」丸目長恵があきれたように発した目線の先には、壁に据え付けられたようにしか見えない本棚があって、彼女が次に出した言葉は「――冗談でしょう?」だった。


 上から数えて五段ある本棚の二段目二冊目の革表紙の本(実際には本に見せかけたもの)に指をひっかけて上半分を引き出す。次に最上段右の端、これまた革表紙風の本も同様に動かすと、がちっ、というなにか大きなものが外れた音がして、本棚自体が奥に向かって開いた。同時に点々と橙色のランプが地下へと続く階段を順繰りに照らしていくと、さすがに丸目は「これはやりすぎっていうか、趣味でしょうよ」と目を輝かす。

 「嫌い――じゃあないんだね」

 「こういうのは普通、大好物でしょ」

 高円寺カルマラビーもうんうんと小さく何度も首を振る。同志歓迎の雰囲気がぱっと広がる。


 「でも実はこうしなければならん理由があって、仕方なしにこうなってるんだがね」佐藤次郎が眉をひそめる理由はこれ以上聞かずとも容易に想像できた。あえて追及することなくカルマラビーの後に続く。


 地下への階段は十三段あった。

 「実は階段の段数が13というのも、実はわざとだったりしますか?」丸目が制作者と思しきカルマラビーに疑問を投げかけると、「次郎もよくそのことを言うけれど、オカルティズムは私らの信奉する科学とは実に対極なんだ。私がこの段数にしたのはこの大学の地下地盤と騒音管理と実用性から導き出した最適解でしかない。実に心外だよ。まさか君まで科学にオカルトを持ち込んだりはしないんだろうね?」ひどく不愉快そうに返してきた。


 カルマラビーが珍しく剣呑な顔を見せたことに丸目は驚きを隠せなかった。

 「カルマラビーさんもあんな顔することあるんですね」と後ろを歩く佐藤次郎に耳打ちする。

 「あいつはそういったところ妙に現実的なんだよな。この世で一番怖いのはお化けじゃなくて人間だと言い切るからな」

 「まあ人間がある意味お化けより怖いという点については、私も同意見ですけどね」

 「――でも」佐藤が言いかけて、丸目が被る。


 「――夢がないよな」

 「夢がありませんよね――」


 「君たちな――」

 先頭を行くカルマラビーがまた苦い顔をしたのが仄暗さを帯びる橙色の明かりの下でもよく見えた。

 「オカルトが数式化できるのか?君らも知っての通りだろうが世界は現実の数値の積み重ねで成っている。君たちの考え方は神への冒涜でしかないと知るべきだ」


 「お化けはナシで神様の存在は信じている――その時点で、実は自分がオカルトを否定できてないと思わないのがこいつだ」

 「――まあここまでくればもうそれは長所ですよね」宗教だって立派なオカルトだと佐藤は言いたかったのだろう。丸目もそれには正直同感だった。

 丸目が自分の意図を汲んだのを理解した佐藤次郎が「違いない」と短く返す。


 佐藤次郎と丸目長恵が妙なところで結託して、見事なリズムで掛け合いが続く。それを横目にカルマラビーが「やれやれ」と息を吐いた。

 十三階段はすぐに行き止まり、突き当たった扉は、前に立った瞬間にシュッという音とともに横へスライドした。空気が流れ出て、三人に吹きかかる。

 「――研究室の――匂いだ」丸目長恵が思わずそう口走ったのは無理もない。

 ぼろっちい木造建築の地下におよそありえないレベルの近代設備が整った研究所(ラボ)が広がっていたのだから。

 広大、とまではいかないものの、清潔に管理されたその部屋には本でしか見たことのないような実験道具や器具がキッチリ揃えられていて、対爆部屋までまで完備されている。


 「驚くことはない。カルマラビーはこう見えて何人もパトロンを抱えた『マッドサイエンティスト』だからな」


  マッドな(狂った)――サイエンティスト(科学者)


 「もうそれ、完全な褒め言葉じゃないですか――!」丸目長恵は確信した。この場所こそ自分の居場所であると。

 「――紹介しよう。君と同じ新入生で部員の――遥彼方(はるかかなた)クンだ」カルマラビーが指を伸ばした先に一人の少年がいた。亜麻色のクセっ毛が印象的な色白の男。それが四方山ロボット研究会の四人目、遥彼方であった。

東京では桜開花宣言がされたのかな――?いよいよ花見シーズン到来です。実はわたくし満開の桜も好きなのですが葉桜の風景もこの上なく好きなんですが、惜しむらくはその頃はちょうど虫の湧く季節でもありまして、酒盛りの最中花びらならぬ毛虫が降りてくるんですよね。それさえなければ若葉萌ゆる景色は酒がすすむというのに――!残念無念でなりませぬぅw

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