日流研の事情、の8(丸目長恵の場合、の1)
自分たちの離婚に反対した娘が男と駆け落ちして子を作り、折角生まれた二人の孫娘をよりにもよってじじいの方に預けたと聞かされた時、「いったい誰に似たんだか」と悪態をついたのを丸目長恵はよく覚えている。もともと気性の激しい娘で、じゃあそれがどちらに似たのか、と訊かれると首をかしげるよりなかった。気性が荒いのは自分にも佐藤次郎にも相応に当てはまることだったし、丸目にしてみれば自分の親もそんな感じだったからだ。
娘が子供らを置いて蒸発したという話を耳にしたとき、丸目は一瞬「なんと無責任な」とは思ったものの、そうなる必然性をどこかで感じていたからそれほど驚きもしなかった。ただ、娘が自分ではなくあの腐れじじいを頼ったことだけがどうにも腑に落ちなかったし、その一点に関しては今でも赦せていない。
孫の名前は右京と左京。二人ともミンケイバーの正式パイロットとして活躍している。
「本当、上手くはいかないもんだよ」
これまでうまくいかなかった全ての事象をを乗せて、その言葉を吐く。人生万事塞翁が馬というが、自分に限ってはアンラッキーターンが多すぎるじゃないか。せっかく回ってきたラッキーのターンは、訪れてすぐ、テストデータそのまま全部をかッ剥がれた形で終わった。
あっという間の出来事だった。
切鍔からカネサキのシステムを使わないかと打診されたのはやはり仕組まれたことだったか――。このことには丸目もさすがに皴を深めざるを得なかった。
いつか「引き上げたい」と言ってくるだろうと思っていたが、想像を超えて今回は早かった。なにかしらのトラブルあってのことだと信じたいが、期待薄だろう。ただ不思議なことに、接収されたのは接近戦用のアーマーシステムの現物だけで、マレの装着していた中距離用と今回携行をしなかった長距離用については今回は接収対象には当たらなかった。
有用性をこちらでさらに検証させてから攫うつもりかもしれないね。この間の有識者招集の会議でよくわかった。――切鍔競は信用ならない。
幸い接収された近接専用のデータはコンピューターにバックアップを取ってある。アタッチメントは――金はかかるが、また作ればいい。国とて無理強いした手前、版権がどうのと突っこんでこれるわけでもあるまい。なにより大本はカネザキだ。国と自衛隊に根回しが済んでいる分、なまじこちらより元データは充実しているだろう。
損得勘定は別のステージでまたやればいい話だ。
クク、と短く笑って。ふと気づく。
「醜いね」
電源の落ちたモニターに映る自分の笑った顔の醜悪さに、そんな言葉が素直にこぼれた。
――娘が、クソじじいを頼るわけだよ。
孫が今の自分の顔を見たら泣くだろうか、と思った。いやそれはないだろう。思い直す。
孫たちも赤子だったあの頃ではない。
彼女たちはもう立派に成人している。
「――いや、だからこそ、この顔を見せられないのかね」見られたくない、と浮かんだ言葉は、口から飛び出た途端、変化していた。
いつからこうも歪んだのかね?
丸目は過去に思いを馳せた。それは四方山ロボット研究会がまだ誰も欠けていなかった頃の記憶だ。
夜分に失礼を致します。映画を見て、「さて書こうか」と思った時にに何故か小説家になろうに入れず、今になってしまいました。え?いつもこんなもんだろうって?返す言葉もございませんw皆様どうか素敵な悪夢を見てくださいませw




