日流研の事情、の1
不本意なことが続くと大抵の人間は不機嫌にもなるし何かに対して八つ当たりもする。
「いつまでむくれてんのよアンタは」
呆れ顔をしているのはダオと小笠原ミル、それに今回は管制官道成正も含めた三人だ。ここに所長の丸目長恵が加われば日本流体力学研究所のロボット部門の関係者が揃い踏みするところだが、生憎と所長の丸目は会議参加のために内地へ行っていて留守だった。
「――結局今回の討伐報酬はちゃんと支払われたって聞きましたけど」何か問題でも?と、小笠原ミルは怪訝そうに口をへの字に曲げた。
「それどころか追加分が上乗せで支払われている」淡々と話すのは道成だ。眉間に皴を寄せる表情はいつも通りで、人によっては「睨まれている」と思うらしいが本人にその自覚はまるでない。平たく言うなら平生から強面なのだ。
「――納得なんかいくかよ。『蛇を殺したつもりだったのに烏に喰われた』んだぞ!?」
激高したマレの言葉に道成と小笠原ミルが「どういう意味?」と顔を突き合せた。
「まあ、横から獲物を搔っ攫われたって意味の諺よ――タイのね」ダオが注釈して、ようやく二人とも合点がいったという表情になる。日本語で言えば、鳶に油揚げをさらわれた、といったところか。
「まあ気持ちがわからんわけじゃないけど、今回は仕方なかったんじゃないのか?――良かったじゃないかノーシェイプmkⅡの仕上がり具合が確認できて。データを見る限り上々だろうに」
「おまえは遠いとこから見てるだけだからそんなこと言えるんだ。あたしだけで絶対勝てたんだ。それなのにあの自衛隊野郎に美味しいトコ取られてさ。挙句に逃げられましたって――納得できるか!」
マレの昂りはどうにも収まらないようだ。語気が尻上がりに強くなっていく。
まあ、正直マレがこうも荒れるのはダオにも理解はできる。あの戦いで一番の功労者といえば間違いなく彼女だ。都市部の被害を拡大させないようにと荒川沿いに戦陣を再構築しさえしなければ赤羽で対外Xと最後まで死闘を演じたのは自衛隊機のトゥルーパーズではなかった。それは紛れもない事実であったろう。
「あたしが納得できないのはさ!あたしのガチャポンごとあいつらに接収されたってことだよ。あたしまだアレ、実戦で使ってなかったんだよ!?それを、接収て!この国は!大手を振って人の物を奪うのか!」
――ああぁそれも、だろうねえ。
ダオもこれ以上マレにかける言葉が見つからず、完全に閉口した。
戦闘終了後、トゥルーパーズの隊長機が誤って装着したガチャットウエポン――俗称『ガチャポン』の近接戦闘仕様の装備を、現地で外すことができなかったという理由で、いったんそのまま自衛隊の拠点に輸送するという報告が自衛隊側から届いた。しかしその直後、「装備一式を自衛隊で接収することになった」と、先程とは打って変わった一方的な通達が、自衛隊からではなく、今度は国側からの正式通告として日流研に発せられた。
通達は、マレがまだ研究所に戻ってきていないタイミングだった。
しかしマレが居ようが居まいが、その通達の内容が横暴であることはその場に居合わせたダオでさえ違和感なしに感じたことだ。
「こんなもの、素直に承服できません」毅然と言い放ったダオに、「これは、決まっていたことだ」と道成正は告げた。大理石のように微動だにもしない硬い表情に、何故ですか?の一言がダオの口から出ることはなかった。
しかし、その言葉の真意くらいはわかる。
モルモット――そんな単語が、ダオの頭に浮かぶ。
――伏線・複雑・収拾――祈れ! なんて。それで解決したら万事うまくいくんですけどね。元祖RPG「Wizardry」の復活の呪文のようにはいきませんね。復活成功割合は幸運度に関係してくるらしいので、私もこれから頑張りますw