武蔵野TVの事情~有野ナンシー(31)の場合の、5
彼らを最初に見かけたのは三鷹駅近くの公園だった。困った表情と深刻な顔を交互に繰り返して遠くに視線をやりながらくるくると回る姿は、嫌でも人目を引く。
声をかけたのは単純に興味本位からくる好奇心ゆえだ。キャスターの性とか記者の嗅覚などというハイエナチックなものではなかった。
「なに――誰か探してるの?迷子とか?」落とし物を探す低い視点ではなかった。自然に口をついたのは探し人についてだ。
「――ええ。実はさっきの戦闘で友達とはぐれてしまって」
そう答えたのは眩しいほどに女子高生をしている少女だった。スラっと伸びた細い脚としっかり外気避けに日焼け止めを塗っている整った顔の少女。
若いと三割増しだというけれど、この子の場合は当てはまらないわね――などと、瞬時に見た目での勝手な査定を下すあたり、有野は自身の性格と職業を素直に呪った。しかし本当に心配そうな顔を見せる少女を見て、浮ついた意識を引き戻す。
結局、最終的な戦場は吉祥寺に移っていたから、三鷹辺りはもうじゅうぶんに安全圏といえた。有野がここにいるのはさっき見た動画が気になったためで、同行していたカメラマンは取材内容を届けるために有野とは別に局へと向かっていた。
よく見ると彼女の着ている制服は、先程動画で見た少年のものとそこはかとなしに共通点があるような気配がする。有野は都内の高校生の制服を見分ける術を持っていない。地方出身者は余程の興味があるかカルト的に熱心でない限りは判別などできはしない。学校なりの風を感じ取れただけ有野はそこそこに優秀であるのだ。
「――探してるのは、男の子?」
「そうです。同級生で」
「――心配ね。手伝いましょうか?」
「いえ。さすがにそれは」
「どうした?薫梨」トラブルに巻き込まれたとでも思ったのか、連れらしい男子が近づいてきた。坊主頭が妙にしっくりくる少年の声は、低い声質ながらよく通るものだった。少年の着ているブレザーを見て有野は確信した。
「人を探してるっていうから手伝おうかって言っていたところよ。私は武蔵野TVのキャスターで有野というの」慣れた手つきで名刺を渡す。
「あ、どうも」慣れぬ手つきで名刺を受け取る。受け取りのマナーがなっていないところをみるとまだこれから進路を決めていく段階の子等なんだろうな、と推察する。
「キャスター?――アナウンサーさんとはなにか違うんですか?」坊主頭が精一杯自分の中で情報を消化しようとしている。これはそういう質問だ。
「君みたいな子、キャスター向きだわ。そうね。アナウンサーより少し賢いのが、キャスターよ」
勿論それは彼女独自の持論であっていろいろと正確ではない。しかしその坊主頭の少年は感心したふうに「へえ、すごいんだ」と納得した顔を見せた。
たて続けに映画を見ていたらこんな時間に。遅くの更新申し訳もありません。しかも微妙に短いのは区切り上やむなしなのですけれど、おーい、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。その際はもうごめんなさいですねw