ノーシェイプ、あるいはシェイプレスの事情、の5
ノーシェイプの見解《マレの場合》
ノーシェイプはマレにとってすこぶる快適な住環境を保持したロボットと言えた。白基調のコクピットの適度な密閉感と閉塞感は極めて防音性が高く機密性も優れている。決して速くはないが、コクピット単体で飛行行動がとれるし海に浮いた状態でしばらく揺蕩うことも出来る。非常用の食料も一週間分くらいは確保されているし、排泄物の処理もコクピット内で無臭のうちに完了することが出来た。
様々な種類のコーティングを施すことで、所謂極地であっても快適な住環境を維持することが可能だし、ロボット特有の乗り心地の悪さもほとんど感じることはなかった。
聞くところによるとミンケイバーにはそういったパイロットに優しい機構はついておらず、歩くたびに深刻な揺れがあり、(噂の域を出ない話ではあるが)家に帰って寝ていても身体が振動し鼓膜が一定のリズムを刻む錯覚を覚えるという。
ただ、マレは時に思うことがある。
ノーシェイプは宇宙人の操る兵器を駆逐殲滅するためのロボットではなかったか?という疑問である。
ノーシェイプの武装は正直言って脆弱だ。コクピットに直接付随されているのは10㎜口径のマシンガンなので、宇宙人の円盤に全弾命中させても破壊できるかどうか怪しいものだ。最も強力な武器といえばマスドライバーから射出された直後の体当たりだが、これを一旦躱されようものなら次は液状化しているコーティングを一部硬化させた状態での打撃(武器名:ピンポイントアタック)しかノーシェイプには持ち合わせがない。しかもコーティングされた状態での機体の移動はひどく遅く、コーティングの施されていないコクピット後部のスラスターは剥き出しのため、狙われようものならひとたまりもない。
ノーシェイプの装甲は敵の攻撃力を上回る装甲ではなく、あくまでも自然環境に対して効果を発揮するだけのものでしかない。
ただ丸いだけのコクピットの表面にコーティングを施しただけのロボット。
「ノーシェイプ(形が無い)どころかシェイプレス(目立った形もない)なのよね。目からビームって訳にもいかないとか、マジでウケるんですけど」
幸か不幸か、今のところ宇宙人との交戦をしていないから良いようなものの、マレはもし有事の際には如何に逃げ出すかについて常に考えている。
「だって命あっての物種でしょうに。私はお金は欲しいけど流石に命を差し出す気まではないもの」




