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インターミッション 切鍔競の場合の、7

 切鍔の表情が一瞬だけ動いたのを丸目長恵は見逃さなかった。

 

 すぐに取り繕って見せたつもりだろうがね――短い()()()が見えてるのさぁ!

 ()()()()()()()()ができるのが自分だけだとい思わないことさね!

 カマをかけてくる相手を崩す方法なんてそれこそ四十八手どころの話じゃあないよ?

 丸目は自身でも自負している通り、この手のやりあいには慣れていた。ともすれば自分の失言で隙を作ることもあるが、そこから生じる不利をこれまで幾度となくひっくり返してきた。


 頭が切れるといっても――まだまだヒヨッコさね。

 

 「まずは()()をよこしな。それについてあたしが手ずからジャッジしてやるよ!」

 丸目は間髪なしに言い放つ。イニシアティブが丸目に寄る。


 切鍔は内心で毒づく暇を与えてもらえず、さらに情報をこちら側から開示することを要求されるというダブルコンボを受け、内心で怯んだ。表情に出たかもしれなかったが腹の底まで見透かされはしていないはずだと言い聞かせる。丸目は()()、と口にした。つまりこちら側がある程度の有用な情報を抱えているとわかったうえで、仕掛けてきた――そう考えるべきだ。

 ――本当に喰えない婆ァだ!

 歯が小さく軋んだ。しかしそれと同時に妙な快楽も湧いてくる。

 伊達に『女傑』なんぞと呼ばれていないってわけか。――悪くない!悪くないぞ!?

 

 ――そうと決まれば仕切り直しだ。薄皮の一枚を斬るのではなく、この際だ。剥いてやろうじゃないか。


 「――わかりました。降参です」切鍔は、両手を開いて表面上の恭順を装う。

 言葉をあえて短く返す。こういった手合いに美辞麗句や余計な修飾語をつかうことはかえって疑いを深める。ここからは持久戦だ。そう言い聞かせる。イニシアティブを――とりあえずは取り戻す。優位を渡すことはすなわち――自死だ。

 そんな切鍔の集中を、丸目はど真ん中から斬って捨てる。

 

 「――()()を先ず、捨てな。互いに肚ぁ割って話そうってのにあんたはどこかで打算を構える。そんなことだといずれ誰かに見透かされっちまって――怖がられるか、あるいはそう――だぁれも寄りつかなくなっちまうよ?まだあんたは若いんだ。たまには正面切ってぶつかってきたらどうなんだい。それともなにかい?あたしがそんなに器量なしに見えるってのかい?」


 はたして切鍔の浮かべた()()、と彼女の言うところの()()が一致していたのか――それはわからない。しかし彼女の言うところの()()の方向性が自分の考えるものの向きと符合しているくらいのことは流石に理解できた。


 ――なるほど?今はまだ敵う相手ではない――か。


 開き直りではないが、切鍔は今度こそ本当に、素直に降参の意味で両手を開いてみせた。彼女の胆力に今の自分は負けた。押し切られてしまったというのは、結果そういうことなのだろう。

 しかし不思議と悔恨の念はない。それどころか自分がこれまで纏っていた邪念というか、矛盾を孕んだ余念を消失させられた感があった。

 「今度ばかりは本当に――参りました」そう素直に言葉が出た。

 先ほどまでボケたフリを徹底していた神宮寺時宗が「騙されんなよ若造。わしも昔これですっかり騙された」と小声でさえずる。

 わかりました、と小声で返す。


 今はまだ治世の能臣を演じましょう?乱世の姦雄になるにはまだ器が違うようだ。


 それにしても、一旦敗北を認めるとこうも楽になるものなのか――切鍔はそう思った。


 こんなことならとっとと彼女に恭順していればよかった。その方がどれだけ楽だったことか知れない。気がつけばあれほど気になっていた胃痛がきれいさっぱりとなくなっていた。


映画「366日」を見てきたんですが。私どうしても苦手なことがありまして。恋愛ものがまるで書けないという(泣)さておき、私は映画を見る際、いつも頭の中でシーンを文字に起こす(小説化する)ことをするんですよね。で、登場人物の次の台詞を予測して、タイミングを見計らって口にするんですが――(もちろん映画館では脳内です)。いやあそれが恋愛ものとなるとことごとく嚙み合わない嚙み合わない。それどころか展開に対して文字起こしが後手後手になってしまい、最終的にはすっかり視聴者ですよ。それなのに最後に見終わってから言うわけですよ。「私だったらこんなエンディングにはしないな」って。もう負け犬絶好調ですよw

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