八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、19
「――なるほどな」柊陸曹はあきらめまじりのため息をついて、天井を仰いだ。
落ち着いて考えて見れば十分に合点のいく答えが出る。
ノーシェイプの追加装甲用の――つまり後ろに付いていた球ふたつは、一つが銃撃戦用でもうひとつがこれというわけか。そもそもTPOに応じて戦略の幅を広げるための追加装備だ。球の中身がどっちも同じでなければならない理由はない。
「――ああもう!」半壊したコンパネを力いっぱい叩く。無論、手が痛むこととコンパネの損傷具合が少し増えること以外何も起こらない。昭和のテレビよろしく叩けば直るような具合に出来てはいないし、損傷はそんなレベルをとうに超えている。
「ものに当たるのやめなさいよ――見苦しい」そう言った久能の顔にも「お気の毒さま」という表情が浮かんでいる。柊の近接戦闘に期待をしていないのは彼女も同じだ。
「でもまあ考えようによってはよ?装甲が強化されたわけだからまあそこは良かったんじゃない?」
「――じゃあおまえの銃を貸してくれよ。ひとつくらいいいだろ?」
「――嫌よ。そもそも、そのゴツイ手じゃトリガー自体を引けないでしょうよ」
――確かに久能の言う通りだ。石川啄木ではないが、カメラ越しにジッと手を見る。アタックトルーパーの三倍はあろう現在の拳は、操作一つで何段階かにフォームチェンジする内部構造になっているようだ。
ちなみに現在は標準の「タングステン・ナックル」を表示している。
「割れたりしないんだろうな?」訝し気に柊が呟く。
「それ以前にあの相手に当てることをまず考えたら?」
なんだと――!口に出かかって、柊はそれをかろうじて呑み込む。久能の言う通りだ。割れるとかそんな心配より先に俺が当てなければ、の話が先に来る。
「――当ててやるさッ」噛みしめる。
ヤックは東本通りと北本通りのちょうどぶつかった場所に動かずにいた。北の方へ跳んで、今は姿の見えないノーシェイプとの位置関係を考えて挟撃を恐れているのかもしれなかった。だからこそ視認できているこちらから目を離すことができない。
本当にそうかと問われると疑問がいくつも浮かんでくるが、今はそう思うことにした。
「久能。援護頼むな」
「――ラジャー」
久能のやや遅れた返事が「今なら撤退の目もあるわよ」と伝えてくる。
「――俺は、絶対逃げたりしないからな」
「あら?私そんなこと一言も口にしてないけど?」
「お前の顔が、そう言ってんだよ!」
今度は久能が「今からでも遅くないわよ?」という言葉を呑んだ。
代わりに「ホント、馬鹿な男」と小さく漏らす。
金色の殻を被った柊機が青白い光を放つバーニアを吹かす。
「柊機、吶喊するッ!」
アスファルトの上に溜まった砂や葉っぱ、塵などを盛大に巻きあげて一直線に地面すれすれを飛ぶ。
「援護射撃どころか、これじゃ追いつけもしないって――!」柊機のあまりの速度に、久能が悲鳴を上げた。
最近昔はやったゲームをPS5でやることが多いんですが、現在のゲームに慣れてしまっているとグラフィックやら操作のアバウトさがもう気になってしまって早々に断念してしまうことしきりです。対CPUの理不尽な強さに「なにくそっ!」と思って立ち向かった昔が懐かしく思える今日この頃ですw