八丈島のクラゲは砥石を研いで針にするの、17
柊陸曹が目の前の敵にこだわった理由についてはいくつかあった。そこには偶然の再会を果たしたマレ・ロムサイトゥーンに対していい格好をして見せたかったといった不純な目的も含まれていたが、それよりもこの二年間を自分自身がそう変わらず漫然と生きてきたのではなかったか――喉元に目を背けてきた現実を突きつけられたことが最たるものだった。
マレは――いや、日流研はこの二年の間にそれまでただの丸っこいボールだったはずのロボットを精密戦闘に耐えうる仕様にきっちり仕上げてきていた。
二年前は性能的にも断然優勢だった自衛隊のトルーパーは、いまや丸いロボットの背中にさえ届いていない。
小さな殲滅戦をいくつこなしてきたとしても、ここ一番の戦いで用向きをなさないのであれば、それはひとえに『役立たず』にほかならない。
無人の円盤100機は巨大獣のひとつに劣るのだ。
無茶であることは重々に承知だ。
だが国防を名に冠する組織がいつまでも民間の後塵を拝するわけにはいかない。
「覚悟を決めろ。久能1士!田辺の弔い合戦だ」
「保なら生きてるわよ?足やられて動けないだけ」
「そうか。生きてるのか。よかった」
「今、陸曹は保のことを殺して心の燃料にしようとしたでしょ?悪いヤツ――」
「もとからあいつが死んだなんて思ってないさ。いくぞ!久能」
「――ラジャー」
久能京華は、柊灯の言葉にブレのなさを感じた。故に、彼に追随した。
前を行くアタックトルーパーの動きをトレースして自分のポジションを探る。
「久能!ヤックを北本通りまで追いたてるぞ」柊の言葉に久能が続く。
柊は東本通りと北本通りが交わる片道二車線の見通しの良い場所を決着場所に選んだ。ヤックが北上して一足早く北本通りに足を踏み入れたのが見えた。
私の射撃で追いたてた気になっていたけど、誘われたのはむしろこっちじゃないの――?
柊とは反対側の車線に入り北へ追いたてる射線を引くが、敵は悠々とした動きでそれを躱していく。まるで巨大化した人間を相手にしているような錯覚を覚える。
「――隊長!これ、私たち相手にされてないんじゃ――」
深追いをしてしくじるのは御免被りたかった。今の柊機は手負いのうえに近接武器のナイフくらいしか武装はないはずだ。マシンガンを腰につけたままだということから見ても弾数は乏しいのだろう。
こう言えば隊長だってあきらめてくれるだろう、久能は腹の底で撤退を望んでいる。
「なら、こっちに興味を戻してやるだけだ」直径十メートル強の丸い塊の前で、柊が立ち止まっていた。
「――え?なんですそれ――!?」久能も追撃の足を止める。
「なにって――秘密武器さ」柊が丸い球のどこかスイッチらしきものでも入れたのか、昔見た未来を題材にしたSF映画のワンシーンのように、球が割れて中から金属の塊が現れる。
「ゲッティング・ガチャポン・レディーッ――!」
魔法少女が変身する時のかけ声のような言葉が柊の口から発せられた時、久能1士は流石に言葉を失っていた。
隊長がどこか遠くに行ってしまった――。薄々、少し馬鹿かなとは思っていたけれど、ついに常軌まで逸してしまったか。
久能はマレのノーシェイプmkⅡがこれでパワーアップした瞬間を見ていなかった。故にそう咄嗟に思ってしまったのだが、彼を普段からどこか侮っていたために出た彼女の本音であることはもはや言うまでもない。
三寒四温と申しますがいまだ穏やかならぬ日が続いておりますね。この調子ですと冬タイヤを交換するのはいつになるものやら。午後の小春日和についウトついてしまった私でした。今日は天気が良いといいなw




