クチナシ
エリザベートは本気だった。アメリアを自分の寝室に入れ、ベッドの上に散乱している仕事上の書類やあちこちにインクや飲み物の粗相がある寝具の一切を床へ放り出した。
そしていそいそと真新しい寝具一式を運び入れた。
さっそくベッドを整え始めたアメリアはハッと気が付いてエリザベートの袖を引き耳打ちをする。
その言葉に……湯あみして露わになった薔薇色の頬を更に染めたエリザベートはアメリアをそっと抱きしめた。
「そなたの言う事は最もだ! ここではそなだだけが頼り! どうか私を助けておくれ!」
「姫姉様の先達を拝命するなど身に余る光栄!いつ何時も姫姉様をお助けし、必ずお導きいたします」
「ありがとう! でもアメリア! 私はハンスを独り占めしようとは思っていない! そなたもハンスをしっかりと抱き抱かれよ! 我ら二人共、彼の種を受け慈しむ事が出来たら……私達は本当の姉妹となり、我らの子達も手に手を取ってこの地を守っていくだろう」
「恐れ多くもなんとも素晴らしい未来でしょう!愛する夫を亡くし失意にくれていたこの私が再びこんな夢を見る事ができるのは、すべて姫姉様のお陰です。」
涙ぐむアメリアの髪を撫でエリザベートはアメリアを慈愛の目で見つめる。
「優しいアメリアよ!その優しさを私は深く愛する」
こう言ってエリザベートはアメリアに口づけし、耳元に囁いた。
「さあ!私達のアマンを呼んでおくれ」
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アメリアに導かれ寝室に入って来たハンスは手に大きな花束を抱えている。
「クチナシか?」
「いかにも、この花は「天使が地上に降ってきた花」と言われております。お二人にこれほど相応しい花はあるまい」
「夢見るような芳しさだ!」
「ではその胸にお抱きなされ!」
ハンスから手渡された花束に顔を寄せたエリザベートはなんとそのまま寝入ってしまった。
「魔法……ですか?」驚きで目を丸くしてアメリアは訊ねる。
「姫様へ本当のご無礼を申し上げるが忍び無く、止むを得ない仕儀でございます」
このハンスの言葉にアメリアは色を成した。
「殿方と言うのはどうしてこうも“唐変木”なのでございましょう! 姫様がどれほどあなたを所望なされたか! 私達がどんな心持であなた様をお迎えしようとしていたのか!!ちっとも分かって下さらない!!」
ハンスはアメリアの前に片膝を付いた。
「私には務めがございます」
「ならば!!姫様の想いを叶えて下さい!! 今、この場でそれが出来ぬとおっしゃるなら!! どうかこのまま私も眠らせて下さい!!」
ハンスはアメリアの手を取り、花束の前に導くとアメリアの意識もまた遠ざかった。
ハンスはアメリアを抱いてエリザベートの横に寝かせ、花束は花瓶に移した。
軽くため息をつき、二人が寝入っているベッドの脇に腰掛けると、整えらたベッドにちょっとした細工が施されているのに気が付いた。
「なんと可愛らしい方々だろう……美しい姫君たちよ。どうか良い夢を」
二人にそっと上掛けを施し、ハンスは部屋を出て行った。
どんな細工がなされたのはご想像にお任せいたします!( *´艸`)