感応
エリザベートの会釈に対し“従士”は改めて口上を申し述べる。
「某はウォーケン侯爵家の嫡男イース公の従士でハンス・フリードリヒと申す者。
主人イース公より、貴方様を護り“ウォーケンの地”へお連れするよう拝命いたしました次第」
その言葉にエリザベートは手に持っている“杖”で足元をガツン!と突いた。
「私にこの地を離れよと言うのか!」
「この地は……次の満月までには侯爵家の衛士が揃いましょう!さすればこの地の民の安全は保証されます」
「それは我が地がウォーケン侯爵に占領されたと同義では無いか!」
「大公はあなたのお父上となられるお方です! 決して“娘”に不義をなさる方ではございませぬ! 貴方様が望めば如何なる援助をも厭わない事でしょう」
エリザベートは固く口を結び、“杖”をぎゅっと握る。
杖はその瞬間、ほのかなオーラに包まれたがエリザベートは介さない。
「皇帝の命が無ければ、そなたの話なぞ聞く耳を持たぬところだ!」
「では、ご同行願えますか?」
「うるさい!戻ってイース公へ伝えよ!『“畑”の持ち主はエリザベート本人! 誰の“種”を蒔くのかは持ち主が決める事! 引きこもりながら皇帝の命を成そうとする様な輩の“種”は受けぬ!』と!」
「それでは、我が主のイース公の言葉を申し述べさせていただきます。『従士ハンスは我が名代なり、ゆえにハンスと勝負する事は我と勝負する事なり!この勝負に我が勝てばそなたは我の物だ』と」
「なんと卑怯な!身代わりを立てるなど!!」
「やはり女子であられますな!これでは勝負するまでもない!大人しく我が主の寵愛を受けなされ!」
「ふざけるな!!」
エリザベートが杖を抜き一振りすると、胴回りがひとひろもあろうかという木があっさりと倒れた。
この様にエリザベートが怒髪天になってもハンスは眉をも動かさない。
「血気にはやられるのは宜しいが、まともに斬り合って貴方様の首をはねれば私の首がはねられます。」
「負けるつもりはないとおっしゃるか?!」
「いかにも。ゆえにその刀であなたの三倍、木こりの仕事をしてさしあげましょう」
今度はエリザベートが鼻で嗤う
「抜ける物ならばな!その刀、私以外には抜けぬわ!」
「分かっております」
ハンスはもう一度片膝を付きエリザベートの手を取る。
ビクン!と身を震わせたエリザベートを見上げ、ハンスは微笑み
「御手を拝借いたします」とその手の甲にキスをする。
「あっ?!」
はしたなくとも聞こえてしまいそうな声を思わず上げてしまったエリザベート!
でも、確かに手の甲を触れる唇を通してハンスとエナジーが行き来するのをハッキリと感じる。
「これで私の事を受け入れてくれると良いのですが」
力の抜けてしまったエリザベートの手からそっと“杖”を奪ってハンスはウィンクした。
「あくまでも“刀が”でございますよ」