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人を穢すもの

「呆れた女か……」


エリザベートは微かなため息と肩の竦め(すくめ)でその言葉を流し、死者の襟元を整えた。


「明日、人をやって埋葬させるが、そなたも検分なされるか?」


従士は歩みって死者の口元に顔を寄せ、そのにおいを確かめ、エリザベートを振り返った。


「“姫”に害を及ぼすかもしれません。どうかお下がり下さい」


エリザベートは自分の身なりを示し従士に命じる。


「私は“姫”などという者では無い。いちいち構うな!」


「さすれば!」

と、従士はビュレットベルトから緋色の液体が入ったアンプルを2本抜いてパキリ!と折り、その1本をエリザベートへもう1本を自分に振り掛けた後、死者を一刀両断にした。


途端に、沼に()()()()藻の様な淀んだ緑色の液体が割られた(むくろ)から飛び出し二人に襲い掛かろうとしたが、その先端が二人に張られた“結界”に触れるやいなや黄色い煙となって消え去っていった。


「これは……蠱毒か?」


「いかにも!この者達の体にこれを巣くわせた者こそ黒幕でありましょう」


「そなたには心当たりがあるのだな?」


従士は頷いた。


「私はただの従士ゆえ、その御名は口にはできませぬが、そのお方はチャックマの徒と通じ王国を我が物にしようと暗躍されているとか。ヴァレ男爵がお亡くなりになられた今、男爵家の血筋は姫様ただお一人です。当然その血筋を絶やそうとなさるはず!」


「ゆえに国王は()()()()()()に“種付け”せよと命じたのだな?」


「そんな身も蓋もない言い方をなさっては、そのお言葉で御身を穢されます!」


エリザベートはその言葉に吹き出し、カラカラと笑った。


「そんな心配は無用だ。穢すと言うのなら私は我が身から出た物で我が身を穢している。畑への肥えやりのたびにな! そなたは、こんな私にそなたの主人が穢されない様、心配すべきだろう」


従士はゆっくりと(かぶり)を振り、答えた。

「“彼の地の神の子”の教えにこういう言葉がございます『口に入るものは人を穢さない。口から出る物が人を穢す』と」


この“思っても見ない”言葉にエリザベートを不意をつかれた


「ご教示をいただきかたじけない」


微笑みながら嫋やか(たおやか)に会釈したエリザベートの……“泥パックがなされたままの”頬が薔薇に染まっているのを従士は垣間見た。




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