らしからぬ令嬢
謎かけのタイトルをふと思いついて書き始めました。
辺境の地、チキヘとチャクマとの国境を治める田舎貴族ヴァレ男爵家の息女エリザベートに白羽の矢が立ったのは、もし、エリザベート嬢に何かあればヴァレ家の血が途絶え、王国の楔が消えたチキヘは敵対するチャックマの徒に飲み込まれてしまうからだ。
家格からすればヴァレ男爵家なぞ、ウォーケン侯爵家の嫡男イースとっては第三夫人辺りが関の山なのだろうが、当のイースは人嫌いの偏屈で……研究所を兼ねた広大な自室に引きこもり摩訶不思議な魔道具の開発に余念が無いとの専らの噂で、婚活目的の高貴なメス猫どもが蠢く舞踏会へもただの一度も足を踏み入れる事も無く、政務としての結婚相手を淡々と“選定”していた。
その結果、エリザベートはウォーケン侯爵家の嫡男イースの第一夫人となる栄誉を手に入れた……と言うか押し付けられた!!
「ったく!この私が侯爵夫人だなんて、へそで茶を沸かす!」
男爵家の屋敷を取り巻くのは庭園ではなく田園で、それらをサクサクと耕す鍬の手を止め、エリザベートは軍手で額の汗を拭う。
「だいたい、煙ったい粉白なんてまっぴら!!
この肥沃な土地の泥パックの方がどれだけ良いか!」
なるほど、彼女の言い分にも一理ある。
本来なら連綿と続く農作業の為、彼女の頬はこんがりと灼けている筈なのに、驚くほどの薔薇色だ!
最も今は野良仕事に於ける“泥パック”のせいで、その頬を見る事はできないのだが……
と、ヒュン!と空気を斬る音が聞こえ、エリザベートは振り上げた鍬でそれを弾いた。
「流れ矢?」
意識を四方にザーッ!と拡げて索敵する。
「……西の森……一人対八人……お互い手練れだな! どちらが賊か?両方か?いずれにしても捨ておけぬ!」
元より農作業の為の軽装!エリザベートは足で刃床を踏み、柄を引く抜くと、それを脇に抱え、脱兎のごとく駆け出した。
一話で書き終わりそうもないので急遽、連載にいたします<m(__)m>
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