雪山で遭難したはずなのに色々都合良すぎる件
オチも丸見えの作品で良ければ。
ホワイトアウト。
「はあっ……! はあっ……!」
視界を奪う吹雪。
「秤さん! 大丈夫!」
「はあ……はあ……だ、大丈夫です!」
ぎゅっと分厚い手袋越しに握り返してくれてほっとする。
「……!」
「ひ、羊原先輩!? どうしたんですか、立ち止まって」
吹雪の轟音にかき消されそうな秤さんの綺麗な声とは別に、声が聞こえた気がして振り返る。
「今、人の声しなかった……?」
「し、しっかりしてください! そんなわけないでしょう! だって、宿の人が……」
そう、居るわけがない。
麓の宿の主人が『運よく貸し切り状態だよ! よかったなあ! わっはっは!』と笑っていた。
あの時は、こんなにいい天気にガラガラでよく笑っていられるなと思ったけど、みんなコレをなんとなく察して来なかったんだろうか。
そういえば、さっきの声、主人の笑い声に似てた。
幻聴か。
死の直前の走馬灯を振り払おうと思い切り顔を振り、頬をはたく。
「ごめん、朦朧としてた。大丈夫」
感覚がなくなっているのか寒さもあまり感じてなかった。
まずい、しっかりしないと。
俺一人の命じゃない。
手を繋いでいる彼女。
恋人関係ではない。
大学の登山サークルの先輩後輩なだけのかわいい後輩。
秤琴子さん。
気立てが良くて、みんなが褒め称える完璧美女。
黒髪ボブカットに、ぱっちりした二重の大きな瞳。
アクティブな恰好が好きだけど、ゲームもかなり嗜む。
正直、ストライクゾーン過ぎるんだがいかんせん強すぎる。
どこかの財閥の令嬢らしいし俺には高嶺の花。
今回も、みんながドタキャンし始めて二人になると分かって中止にしようとしたけど、秤さんが物凄く豪勢な料理をお願いしててキャンセル料が馬鹿高い上に、子犬のようにしょんぼりする秤さんが可哀そうで……。
こんないい子を死なせるわけには!
「あの……先輩、あそこ……」
秤さんが耳元で囁く。雪が激しすぎたせいか布越しの唇が当たる。
いや、そんなことを考えてる場合じゃない。
ぼんやり見える秤さんの腕の指す先に明かりが。
「助かった! あそこで休憩しよう!」
「はい! 休憩しましょう!」
小屋に入ると、何故か冷暖房完備で暖かい。
「先輩、濡れた服乾かしましょう」
何故か出来立てのガーリックステーキやすっぽん鍋……昨日と同じ料理がある。
「先輩」
何故か外の音が聞こえない。
「先輩、大変です」
何故か彼女は……。
「着替えはなかったんですけど、分厚い毛布が一枚だけ……先輩」
妖しく笑っていた。
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