疑いたくない
服装結構凝ってます。久しぶりの更新ですが、後書きでご報告があります。
ミルアは純白の自室で一人、部屋の中でぐるぐると動き回っている。
本当ならみすぼらしくても井戸の自室の方が落ち着くのだが、そこにこもってしまえば報告を受けることができない。仕方なくここで何もできない聖女らしくしているのだ。
(エレクはもう回復しているはず。ここの兵士如きが捕まえられるはずない。回復したのに戻ってこない時点で私のことを疑ってる。他の奴らに報告してもし接触でもされたらエレクどころか全員に疑われる。けどいつまでも隠せるものじゃないし、既に他の奴らに接触してる可能性もある)
報告してもしなくても疑われることは避けられない。常に仲間に相談してから動くエレクが一人で行動している可能性は低い。もう既に全員に情報が出回っているのか、それとも一人だけか。仮に一人だけにしか情報が回っていないとして、一体誰なのかと結論が出ないまま焦燥感だけが募る。
コンコン
動き回る速度が早くなった瞬間、扉を叩く音が響く。肩が跳ね上がり、咄嗟に顔を扉の方に向ける。
「ミルア、突然ですまんが今話せるか?」
よく知る声、盾のグレアの声は静かになった空間でよく通る。グレアの背後には、気だるげな態度を隠そうともしない長耳のハイエルフの女と背の低いローブをまとった子供のような男がいた。
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数時間前、グレアの砦の元には勇者一行の仲間が集まっていた。
いつでも戻れるように魔道具のある大広間を話し合いの場として選んだ。そこは権威を示すために控えめだが豪華な造りになっているが、人払いしたため広い空間に三人だけ床に座り込んでいる状態だ。
「…はっきり言って俺は聖女ミルアを疑っている」
全てを話し終わり、結論そう述べたグレアを弓使いのハイエルフは黙って、魔法使いは口をはくはくと開閉させている。
無表情のハイエルフ、アメディア=ロエールは光沢あるミルクティ色のポニーテールが一切揺れないほど微動だにしなかった。白い長袖の上に深緑のベストコルセットと肘より少し上からのびるふんわりした同色の付け袖、黒いスキニーに茶色のロングブーツ。
弓使いであるにも関わらず胸当て一つ無い服装はお洒落で戦闘員だと感じない。アメディアは無表情でしばらく黙っていたが、ようやく若葉色の目をグレアに向けた。
「ミルアがエレクを嵌める?あの子はエレクを愛してる。意味が分からない」
「そっ、そうですよっ!!そもそも仲間じゃないですか?!」
いきなり立ち上がっても威圧感ない背の低い男は最年少で今年、十八を迎えたばかりだった。彼、マルク=アブリットは紫紺のローブをばさばさと揺らすと隙間からアメディアと色違いの虹色の光沢を放つ銀色のベストコルセットが見える。小さな丸眼鏡レンズをかけた自信の無さそうな顔とは裏腹に履いている靴はいかつい黒の厚底ブーツだ。
アメディアとは対照的で目も手の動きもぐるぐると忙しい。その横でアメディアは話しを続けた。
「兵士か使用人、化けた奴がミルアを陥れるためにやった可能性もある」
「俺も他の奴らがやった可能性を排除するつもりはない。兵士たちや使用人たちの様子も気になるからな」
「ミルアに、聖女に精神系のスキルはない。兵士、使用人、操るのは不可能」
そう結論付けたアメディアからは視線を外し、グレアが代わりに見るのはいつの間にか座って視線を床に落としているマルク。ウィスタリア-青みある紫色-の髪が表情を隠している。
「洗脳は無理でしょう、アメディアさんが言うようにミルアさんに精神系スキルはありません。盲信、狂信してる人がいたとして集団でそんな愚行をするとは思えません」
その言葉にアメディアはうんと深く頷いく。
「ミルアさんに教祖的な素質があれば別ですが」
瞬間、表情を崩さずに刺すような視線だけをマルクに向けるアメディア。当然、気の弱いマルクはそれにびくついたが丸眼鏡を指で押し上げて仕切り直す。
「っ、う゛んっ!彼らがミルアさんのために動いているのは明白です。もちろん、表上はミルアさんのために動くようにして陥れようとしてる可能性もあります。ミルアさんはエレクさんに想いを寄せている、だからそんなことをする理由がない。言いたいことは分かります、ですが」
そこまで言うと真剣な顔でアメディアの方を向く。星屑のような銀色の瞳はもう揺れていない。それを横から見るグレアは立ち上がりやすい姿勢に座りなおした。
「僕たち、ミルアさんたちにどのくらい会ってないと思っているんですか?」
「三年だけ」
「充分、人が変われる月日です」
ほぼ悠久の時を生きるハイエルフには理解できない感覚、だからこそマルクはあえて残酷な言葉を選ぶ。
「…分かった、でも納得していない。確かめたい」
「僕もです」
「決まったな。ミルアと砦の様子を見るために直接接触するぞ。エレクを追い出すことが目的なのか、もしくは全くの予想外の出来事なのか拾えるだけの情報を拾う」
「はいっ!」
「了解」
立ち上がったグレアの後ろを、時間差で立ち上がったマルクたちがついていく。事はグレアの予想通り進んだ。
アメディアは表情に乏しく、薄情だと誤解されがちだが一旦懐に入れると信用しきってしまう。逆にマルクは過去のこともあるが生来の考える人だ。情報を与えれば、嫌でも考えてしまう彼は自覚は無いがパーティーの皆を繋ぎ止める楔。アメディアを協力させるさせるにはマルクからの言葉は必要不可欠だった。
そして今、ミルアの部屋の扉前にグレアたちがいる。
美醜逆転シリーズとの両立が難しいのと、書き終えて反省会してからの成長させた技術で書きたい欲が出てきました。また、他にも趣味があり、優先順位を付けるのが難しいためしばらく更新をお休みします。早くて、再びの更新は4月になります。