草原の亡霊
スランプ気味なので遅筆に拍車がかかっています。それでも進めているので!!
グレアは職業としてだけでなく、正に盾そのもの。
どんな恐ろしい姿の敵や重圧、殺気にも動じず立ちふさがる。豊富な盾スキルを使いこなし、体躯に見合わずMP-スキルを使用するのに消費する力-を無駄をしない器用な力の使い方で適切に攻撃を防ぐ。
スキルにより動く盾、展開する盾で敵の攻撃を一身に受け、味方には決して届かせない。特にもう一人の仲間、魔法使い《キャスター》との連携技は仲間内でも評判だった。
兄貴肌ながらも上品な仕草を見せる時もあり、育ちがいいのではと未だに過去は謎のままだ。
「ミルアは俺らの方で調べてみる。せっかく動ける体になったんだ、どうせなら俺の知り合いを助けてくれ。ちょっと手こずってるらしいんだ」
元々ギルドで活動していたグレアは有名になった今も、昔の繋がりを大事にしているため情報通である。
エレクが詳しく話を聞くと、ある地方で数年前から生まれたばかりの赤ん坊、しかも女の子ばかりが殺されるという事件が定期的に起きているという。同一犯とみなされたのは全員が刃物で一突きという同じ手口で殺されているからだ。
「それは…確かに一刻も早く解決しなければいけない事件だな」
未来ある、若すぎる芽を摘むという残忍な犯行を繰り返す犯人に対して怒りがエレクの胸の内に渦巻く。
「だろ?手がかり一つ無い状態でな。お前の状態感知でなんとか探れないかと思ってな。次の犯行が行われるまでの期間がどんどん短くなっている。だからお前が滞在するだけでも何かしら掴めると思うんだ」
「そういうことなら喜んで協力しよう」
話がまとまると真っ先に準備を始めたのはグレアだった。エレクはまだ体調整えてろと言われて、また運ばれてきた食事を食べている。
食事を食べ終わる頃にグレアが連れてきたのは一人の使用人らしき男と冒険者たちだった。パーティーであろう冒険者たちの中に一人、懐かしい顔を見つけた。
「ネクロス!」
「お久しぶりです、エレク様!」
パーティーの中でも小柄な男が口角を上げてエレクの元に走っていく。
「知り合いか?」
グレアの言葉にエレクは嬉しそうに頷く。
「あぁ、一時期ギルドで訓練を受けていたことがあって、その時に知り合ったんだ」
「あの時は大変お世話になりました」
ネクロスの言葉にグレアは疑問を持つ。世話になったのはエレクの方ではないのかと思ったグレアはつい口を出してしまった。
「ん? どういうことだ?」
「僕はエレク様が来る前は別のパーティーに所属していたのですが、実力不足で怪我することが多くて…、どうしてもその時のメンバーと一緒に階層を上がりたかったんです。それを吹っ切れさせてくれたのがエレク様なんです」
「余計なことだとは分かっていたのだが、ネクロスの周りの人たちも辛そうで口を出してしまったんだ」
「あぁ」
仲間で冒険者をやっている者ならほとんどが通る道だ。最初は小さな開きが大きくなり、自身の適正を思い知らされる。懐事情や年齢的に動ける時間を考えると同じメンツでは通用しなくなる時がある。
「皆を悲しませたくなかったし、同じ夢を追っていたからこそ邪魔したくなかったんです。まぁ、それを決心できたのは死にかけてからなんですけど」
頭をかくアルトを優しい笑みで見るエレク。
「間に合ってよかったな」
眩しいものを見るようにグレアは言った。
「そろそろ俺らのことを見てくれねぇか?」
今のパーティーメンバーが後ろからグレアを羽交い締めしながら絡みにくる。
「あぁ、わるいな」
グレアもやっと気づいたという風に視線を向ける。
「こいつらが今、事件を担当している”草原の亡霊”だ」
珍しいパーティー名にエレクは一瞬、面食らったような顔をした。それを察したのかリーダーらしき男が説明し始めた。
「俺たちは攻撃力が皆そこまで高くなくてな、代わりに偵察能力は高くて不意打ちで急所を突くっていう戦法が得意。目くらましや幻影作るのに特化してる奴もいる」
「なるほど、紛れて戦う。確かに調査向きだ」
「勇者様はグレアから話はどこまで聞いてますかな?」
「数年前からとある地方で数年前から女児の殺人事件が定期的にあり、次の事件まで期間が短くなっているから私のスキルが必要だというところまでだな」
「なら話は早いな」
「地方っていうのはアルケー地方。一番新しい事件は数時間前だ、向こうで一緒に調べてる奴から情報がきた」
その言葉に一気に緊迫感が増した。
「今すぐ向かいたい、グレア、すまないが服を貸してくれないか?」
「そのためにコイツを呼んだんだよ」
「勇者様はやっぱり訳ありか?」
顔にこそだしていないがエレクの寝間着と裸足の状態に困惑していたのだろう、何か事情がありそうな雰囲気に逆に安堵していた。
「あぁ、暫くは勇者だということを隠すつもりだ。だからそうだな…、サロスと呼んでくれ」
一月までには気分切り替えたいと思っています