魔導士ディーラー 味方の暴走を止めるそうです。②
ステータスオープン、韋駄天スキルレベル3発動を確認。
ステータスオープン、投擲スキルレベル3発動を確認。
ステータスオープン、鉄拳スキルレベル3発動を確認。
矢継ぎ早に魔法石を9つ使って自分の能力を向上させたが比較的使用慣れしたスキルを咄嗟に発動させただけなので気休め程度にしかならない。
ただ安直ではあるがいくつか考えがあった。
アイリスは刀を両手で握りしめ微笑みながら肩を震わせている。
「ベルリー、アイリスを止めるには刀に鞘を納めればいいんだよな」
「はい、でもどうやって?」
「タオフーが魔物を倒すまで粘るしかない」
「んな無茶な」
「無茶でもやるしかないだろ」
「何かお手伝いできることは?」
「鞘を目視で探してくれ、それからメディーとこの場から離れてアイリスの間合いに入らないようにできるだけタオフーの近くにいて。じゃないと死んじゃうから」
そう忠告だけ残して私はアイリスが一歩目を踏み込むタイミングで彼女の間合いに突っ込んだ。
斬撃を喰らうよりも早く、刀が振り落とされるよりも前に柄手を両手で下から抑えて見せる。
韋駄天スキルのおかげで白刃取りならぬ柄手掴みが成功し二人との距離を稼ぐことに成功したが誤算だったのは強化されたアイリスの腕っぷしが強くこのままでは押し切られるということだ。
「にぃに」
満足そうにそう言った彼女の顔は柔らかく、無垢そのものであり鉄拳スキルで強化された拳を力づくで押し込んでいく。
「にぃに楽ちい?」
舌足らずに質問されても答えることができない。すでに踏ん張らなければいけない足腰のバランスが崩れ、背中が地面につきそうな態勢になっている。
「にぃになんでなにも言わないの?」
不機嫌に言ったアイリスは私を押し倒し、マウントポジションをとる。
「にぃにあそぼ、ねぇあそぼうよ」
「アイリス目を覚ませ、私はきみのにぃにではない」
「うそだ!」
突然ヒステリックに叫んだ彼女に私は驚いてしまい慌ててなだめようと試みる。
「ごめんごめん、でもきみのにぃには他にいるよ。思い出してみてきみにはチルトっていう優しい兄が……」
「どうちて嘘つくの? にぃにあたちのこと嫌いになったの?」
彼女の瞳から光が消えた。刀の切っ先を私の鼻先に向け目に涙を浮かべていた。
「うそつきのにぃになんていらない」
言葉の内容とは裏腹に再び表情は笑顔になる。感情の起伏がコントロールできない幼児のように感性が爆発しそうになっていた。
容赦なく振り下ろされた切っ先が顔を貫く前にその刀身を拳ではじく。
地面に深く突き刺さった刀身が返し鏡になって自分の顔を映した。なんてこった、この数秒で五年も歳をとったような顔をしてやがる。




