魔導士ディーラー応急処置をするそうです。
「夢か」
まるで高い場所から落とされたような脱力感で目覚めた。そこら中痛いのは崖から滑り落ちたときに全身を打って打ち身になったからだろう。意識が定かになってくると額の上に冷たさを感じてその物体に触れてみた。
どうやら濡れタオルらしいが私がリュックサックに入れてきたものの中にこんなものはないはずだ。
「あ、起きたぁ」
震えた声が聞こえる。私は首だけを起こして数メートル先を眺めた。
「あのぉ、お怪我は大丈夫ですかぁ」
びくびくしながら恐るおそる近づく少女は初めて出会った時に着ていた体の半分が露した服の上からフード付きの白を基調としたローブを身に纏っていて、その手に新しいタオルを持っていた。
「きみが看病してくれたんだね、ありがとう」
私は無理やり体を起こして微笑む。すると少女も微笑み返してくる。
「は、はぃ」
「はは」
から返事をした少女は替えのタオルを手渡してくれた。その腕の先に出来たばかりの切り傷を見つける。私は少女の腕を掴んだ。
「ヒッ」
驚かしてしまったようだが、傷の深さの方が心配だ。
「どこで怪我した?」
「さっき川に行ったとき岩で……」
説明を聞きながら観察すると、傷口の形状に納得できた。ここは魔物が住まう森の中だ。どんな病原菌がいるのか分からない、このままだと感染症にかかってしまうかもな。
「消毒は?」
「手当てはしましたぁ」
手当とはその名の通り傷口に手をあててそこに魔力をあてがう、魔導士以外でも勉強すれば発動できるほど簡単な応急処置魔法だ。
「傷口を塞いでないのは?」
「そのぉ治癒魔法がうまく使えないのでぇ」
そうだったこの娘は簡単な回復魔法すら使えない白魔導士だった。
「このままじゃ、傷口からばい菌が入って大事になるかも、せめて魔道具はもってないかい?」
「ないですぅ」
少女は息が抜けたような返事をして困ったように笑う。困ったのはこっちなんだけどね。
「分かった、じゃあちょっと痛いけど我慢してね」
私はポケットから治療蟻が入っているカプセルを取り出すと少女の腕に置きロックを解除した。
「ヒッ」
再び悲鳴を上げ背ける。少女の腕を這うように小さな蟻たちが傷口目指して行進する。
「これは治療蟻って言ってね、傷を塞ぐんだ。顎に消毒もしてるから大丈夫だよ」
蟻たちは傷口を縫うように裂けた皮と皮に嚙みついた。私が「発」と気合を入れると蟻の顎を残して胴体が爆発する。すると顎だけになった治療蟻はまるで糸のように縫われたようになった。
「これでもう安心だ、腕を動かしてごらん」
私は少女の腕を離し優しく微笑んだ。
「あぁ、すごぃ」
軽く腕を回した少女は安心したように言った。その表情を見て私は安堵しようやく周りの状況を確認することができた。
「あれリュックサック近くになかった?」
背中に背負っていたリュックがなくなっていることに気が付いた私は少女に訊ねる。
「あっちにありましたぁ、でも重くてびくともしなかったので置いてきちゃいましたぁ、すみませぇん」
――あぁそりゃそうか、あのリュックサックは特別性だから。私以外の者が持つことは難しいだろう。
「分かった、取りに行くから案内してよ」
「は、はぃ」
少女は相変わらずの口調で私の前を歩き出した。