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魔導士ディーラー アホの子

 私たちの身体には大きく分けて二種類の血管があり、心臓から体の末端に流れる血液を動脈と末端から心臓に流れる血液を静脈という。しかしこの世界の人々にはもうひとつ、魔力が流れる魔脈という管が動脈・静脈に絡みつくように通っていた。


「メディー、アイリスの魔脈絡はどこにある?」


「え、えぇっとぉ」


「落ち着いて、魔力の流れを感じるんだ」


 私はなるべくゆっくり彼女につぶやいた。もし間違って血管を傷つけてしまっては血液に魔力が入り込み合併症を引き起こしてしまう。


「見えましたぁ」


「よし! ガイディングカテに意識を集中させて狙いを定めろ」


 私はメディーに魔力を供給した。手の平から送り込んだ魔力がメディーの背中を伝わり全身を勢いよく回り始める。意識を集めた右手からガイディングカテが服の上からアイリスの右腕を突き刺した。


 血液が体外に漏れていないことを確認して、私はメディーに左手を握りしめるように続けた。


「細かな魔力コントロールは私に任せて思いっきり握ってくれ!」


 少しずつ瓶の中のポーションがなくなってメディーの魔脈を通っていく。情けない声をもらす彼女はやはり魔脈を介しての戦闘サポート経験がなかった。


 だがしかし、


「やるしかない」


 本来口から摂取するものを自分の体を介して相手の体に送り込むわけだ。もぞもぞする感覚に襲われるのは想像がつく。


 私は魔力をコントロールしながら、ポーションがメディーの魔脈に溶け出さないよう右手に持つガイディングカテーテルへと運んでいく。


 瓶の中身が空になったことを手のひらから感じて、一気に魔力を解放しアイリスの右腕に穿刺されたガイディングカテへ流した。


「うぐぅ」


 ポーションが魔脈に流れ込んだアイリスは一瞬力が緩んで押されたがすぐに全身が光だしステータスの上昇効果が見られた。


「はっ!」


 会心の声が響いてアイリスの刀はデスワームの牙を跳ね返す。


「おみごと!」


 それどころかあのわずかな間に牙の何本かを潰し、すっぱり斬られているものもあった。


 デスワームは自分の身体の一部が破損した現実を受け入れらないかのようにアイリスを凝視したまま、困惑の表情を浮かべている気がした。


「アイリス大丈夫か?」


 私は彼女がどこか怪我している可能性とポーションの馴染み具合の二つの意味で尋ねる。


「ふん、お節介だったな。案ずるな、こいつもぶっ倒してやるのら」


 デスワームに対して胸を張り、怯んでいるすきをついて反撃を開始する。


 踊るように刀を振るうアイリスを頼もしく思う反面、心の奥底でひっかかりを感じていた。


 ――のら?


 はて? アイリスの語尾はそんなコミカルなものだったか。


 無意識にベルリーへ視線を送る。彼は神妙な面持ちで言った。


「まずいっす。もう剣の呪いが蝕んできている」


「知性を奪うって言ってたけど、何がどうなるの?」


 大きく息を吸って吐いた。戦いの緊張感が二人の間を吹き抜ける。


「知性が少しずつなくなって言葉尻や言動が幼児化します。それから理性がぶっ壊れて本能でしか物事を判断できなくなるっす」


「というとつまり?」


「つまり戦闘中アホの子モードで暴走するっす」 



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