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魔導士ディーラー 経験に勝るものなし

「勝負ありだな」


 爽やかで、楽し気な彼女の声が耳を撫でる。


 目にもとまらぬ早業で魔物を仕留めて見せた。


「あんな大きな魔物を攻撃も受けずに一撃で倒すなんてすごすぎるっす!」


 ベルリーは興奮気味に飛び跳ねて、メディーは構えた杖を下げた。


「メディー気を緩めちゃだめだ」


 私は脱力しきった彼女の背中を強めに叩いて叱責する。


 傍らのタオフーが警戒を解くそぶりは見せないのはさすがだった。

常に最前線で戦う剣士やその他の役職者はメリハリをつけながらクエストを進める必要があるが、いつなんどきどんな緊急事態が起こるか予測できない状態で、迅速な対応が求められる魔導士は気を張り続ける必要がある。すなわちクエストが終わるまでは一息つけない。


 そんな大変な職業だからこそ私たち魔導士ディーラーがいるわけだ。


「は、はぃ!」


 再び背筋が伸びる。手のひらに筋肉の緊張を感じて手のひらを離した。


「よし、いい心がけだぞメディー。ひとつずつ覚えていこうな」


 労いの言葉をかけるとメディーは振り向いて笑みをこぼした。


 偉そうなことを言ったが、重すぎる責任を背負っている魔導士には頭が上がらない。


 今は頼りない印象のメディーだっては経験が少ないだけで、これからクエストをこなしていけば立派な魔導士になるはずだ。


「ムートさっきから何を恐れている? そんなに私の力が信用できないか?」


「違うよアイリス、たしかにきみは強い。だけど経験が少なすぎる」


「なにっ」


 アイリスの顔がすごむ。私は言葉を選びながらゆっくり口を開く。


「別にきみをバカにしてるわけじゃないよ、でも魔物の倒し方や口ぶりをみるとまだまだおごりが見える」


「ふん、戦うこともできない魔導士ディーラーが分かったような口を聞くな。不愉快だ」


「実際分かっているんだよ。私は弱いけど勇者パーティーで猛者たちの戦い方を見てきたから」


「うるさい! 結局ムートも私を認めないんだな」  


 アイリスは悪態をつきながらそういうと倒れたトロールに近づき足をのせた。


「おごりがあると言ったな、私はこいつの急所を五か所もついて腕まで切り落とした。確実に仕留めたんだぞ」


 むきになる彼女を見て、チルトが過去に言っていた言葉を思い出す。「妹は天賦の才がある、だからこそクエストで命を落とすかもしれない」と。今ならその意味が分かる気がした。


「アイリス、私の話を……」


「来るます!」


 両耳の鼓膜が震えた。地獄耳スキルが反応する前にタオフーが臨戦態勢に入った。


 レベル1とはいえスキルを発動していても神経を研ぎ澄まさないと感知できな微細な振動。いったいどこから?


 私はメディーの背中に右手を添えながら神経を両耳に集中させる。

 草むらか、巨木の陰か、空の上か。否!

「下ネ!」

「地面からなにかくる! アイリスよけろ!」


 タオフーと私が叫んだと同時に倒れこんだトロールの下から突き出てきたのは土に擬態したデスワームという魔物だった。



 

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