魔導士ディーラー アイリスの戦闘①
「アイリス左からもくる」
「騒ぐな、分かっている」
私の注意を不服としアイリスは四方八方から飛び掛かるこうもりに似た魔物を斬った。べちゃべちゃと地面にたたきつけられた肉塊は異臭をはなつ前に可愛らしいパンジーに変化し、死ぬ直前に恨めしそうに睨んでいた魔物の顔はバラとなり私たちを見つめていた。
「他愛もない」
アイリスが呆れた口調で言ってから返り血ならぬ帰り花弁を羽織った服を払って舌打ちした。
「へぇ不思議な剣ですね、斬った相手が花弁に変わるとは」
「それが知剣の力っすよ、タオさん」
「ベルリンこれって摘んでもよろし?」
「どうっすかねぇ?」
いつの間にか仲良くなっていた二人はお互いをあだ名で呼び合って数秒前まで魔物だった花弁を拾い上げ遊んでいた。
「あぁああ……」
そんな二人とは対照的に背中を支えられ杖を構えただけのメディーはいきなり現れた魔物にまだ驚いているらしく戦闘が始まってから呼吸のリズムが定まらない。
「メディー過呼吸になる前に吸ってから息をとめてごらん」
「や、やってみますぅ」
そう言って口を閉じその上から両手を被せて見せる。十秒くらい止めてから深呼吸するだけでよかったのだが、彼女はそのまま倒れた。おそらく酸欠だろう。顔色が青く目が虚ろになっていた。




