魔導士ディーラー 開門するそうです。
彼女は剣士でありながら鎧などの防具をほとんどつけておらず、そのしなやかな体つきがはっきりわかる流線型の学生服のような恰好をしていた。
「アイリス、そんな軽い装備で大丈夫なのか?」
周りを見渡せば他の冒険者は重装備に耐久性を向上させるバフをかけているのだ。そんな中なにもせずに正門を見つめているアイリスは異質であった。
「問題ない」
朝焼けの寝ぼけたような風がアイリスのマフラーをたなびかせる。
「私は魔物の攻撃を受けないからな」
「だけど、万が一ってことがあるだろう。集団で襲われたらどうするんだ? せめて強化を……」
「いらん!」
アイリスがもどかしそうに眉を寄せながら、再び閉じた正門の先を睨みつけた。
「余計なこと言ってわるかったよ、でもマリアからポーションを預かってる。戦闘になったら少しでも能力を強化してくれ」
「くどい!」
アイリスがさらに声を荒げ、刀の柄に手をかけた。
「私は気が立っている」
「わかったよ、ご、ごめんな」
苦笑いして一歩後退する。これはまるで年頃の妹と仲良くしたいのに嫌われてしまった兄貴みたいじゃないか。
「ムートさんディーラーがそんな顔をしてたんじゃ魔導士様が不安になってしまいますよ」
見下げるとベルリーが笑顔で私を見上げていた。少し離れたところで乾燥した唇をしきりになめているメディーを見て深呼吸する。
「ありがとう切り替えるよ」
精一杯の笑みをメディーに向けた。彼女は不格好な微笑みで返す。
「それに剣士さんは大丈夫だと思うっすよ、皆さんはあの刀の刀身を見たことがないから信じないでしょうけどあれは間違いなく五大神剣のひとつです」
自信満々に言うが、それならそれで私は不安だった。世界を破壊できる力を秘めた神剣はその危険性から帝国誕生とともに封印された。その過程でもともと一つだった剣が強大な力を宿したまま五つに分裂し世界に散った伝説は黒魔導士様に教えてもらったことがある。剣をふるう使い手が受ける代償のことも全く知らないわけではない。
「タオフー」
「はい?」
「よろしく頼むよ」
「ハオハオ、帰ったらアルコールを奢ってくださいね」
「あぁもちろん」
「開門!」
年老いた守衛が叫んだ。森につながる門が音を立てて開いていく。
私は出陣式に顔を出していたチルトとマリアを見つけると無言のまま手を振った。




