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魔導士ディーラー 反省会

「へぇ、私がショッピングに夢中になっている間そんな面白いことがあったなんて驚きですね。しかし子どもじゃあるまいし挑発にのってしまうなんてバカですねぇ。もっとうまいやりようがあったでしょうに」


「バカ言うなタオフー、私だって今さらやりすぎたかなと後悔してるんだぞ」


「でもそんなおバカなムートが好きですよ私は」


 他人行儀に明るいうちから酒を飲むタオフーを睨みながら、私は大きくため息をつく。


 彼女の家に帰る途中、オープンテラスでお気に入りの服をまといながらまったりやってるタオフーに呼び止められ集会所での一部始終を説明した反応がそれだった。


 私だってもっと上手いことをやれたのではと自覚はあるが、自覚があるのと人から指摘されることはまた別の話だ。というかどんな聖人だってここまで正論を言われては逃げ道がない分腹が立つ。


 面白くなさそうにグラスをあける私におかわりのお酒をつぐ。乾杯をもとめられたので通常の1.5倍強くグラスをぶつけた。しぶきが買ったばかりの服にかかりタオフーは果てしなく迷惑そうにしているが、ここは我慢してもらおう。私はお酒ぐいっと胃に収め塩っけの多いつまみのスナックをかみ砕いた。 


「きみはバカだ」


 まだ言うかこいつは。


 タオフーはあんまり美味しくなさそうな魚料理を箸でつまみながらちびちび口に運ぶ。かちゃかちゃと細かい骨を箸で並べて器用に文字をつくるとはっきりバカとかいてあった。


「それでタオフーはこの後どうする? 魔導国に向かうのか?」


 挑発には惑わされずに話を変える。彼は長い髪を指で遊ばせて言った。


「うーん、そうですね明日の朝には出立しようかと」


「そうか、じゃあ今日で一緒に飲めるのは最後か」


「あれ、てっきりパーティーに誘われるかと思いましたよ」


「それはお門違いだろ。今回のことはタオフーに関係ないことだし、それにあの森を一緒に突破してくれただけでも助かったんだ。今度は自分から危険な森に入ってくのにまた守ってくれはちょっと違うだろう」


「まぁ実直なお人ですね、深々と頭を下げて三倍ほど駄賃をいただければ護衛についていくのに」


「残念ながらお金はない、魔道具を買ってしまったからね」


「そういう事情なら致しかたない、戦い方は教えましたからあとはご自分でなんとかしろください」


 タオフーは少しずつ傾き始めた太陽を眺めていた。


「……でももし命の危険を感じたらお逃げろください」


 横顔でも真剣な口調で言われると不安になる。


「あぁそうするよ。そうできたらね」


 不安を振り払うように素直にグラスを上げ飲み干すとタオフーはさっきの言葉を誤魔化すように笑みを浮かべた。 


「でも大丈夫なんですか? 彼女の性格的にこのまま大人しくしているとは思えませんけど」


「と言うと?」


「あらあら~その妹さんが、むきになって無茶をやるかも知れないネってこと」


 タオフーの呂律がどんどん回らなくなってくる。私は付き合いでちびちび酒をなめながら答える。


「さすがに大丈夫だと思う。いくらアイリスが感情で動くタイプとはいえ兄の言うことに逆らうほどそんなことはしないと……」


 そうは言いながら私はすごく不安になってきた。


 ――いやいやまさか。


 不安を取り払うように頭をふり、私はタオフーにわかりやすい笑みをこぼして彼が頼んでいたおつまみに手を伸ばした。


「タオフーさっきも話したようにアイリスはランクは低いが剣技は昔からすごかったんだ。だからあの森がいかに危険かくらいわかってると思うんだ」


「だからですよ、彼女なかなかの剣士なんでしょう、私のいた国では中途半端に強いと早死にするますよ」


「うーん」


「ムートは戦闘員じゃないから分からないと思うネ、自信家で強いことを自覚している人間ほど否定されればされるほど力を試してみたくなるですますよ」


「そんなもんなの?」


「武術家や剣豪なんてそんなものアルよ」


 タオフーが、野菜スティックを口に運ぶ。ぼりぼりとスティックをかみ砕く心地よい音がアルコールで少し火照った身体にしみる。


「ムートグラスあいてるネ」


 タオフーにそう言われ、私は雲一つない空を見上げる。


 ――まぁ今日くらい昼間から飲んでてもいいよなぁ。


「乾杯!」


 タオフーとグラスをぶつけあい勢いのまま酒を飲む。


「うまい!」「おいしいネ」


 私たちは笑い合う。


「あやぁ~みんなも呼べばよかったネ」


「そうだなぁ、メディーとベルリー、アイリス・チルトにマリア、ダンカンさんぱぁっとやればよかった」

 


 昼過ぎの気持ちの良い風が体を包む。


「……、ム……ト……ん」


 こうしてふわふわした気持ちでいるとすごく幸せな気持ちになる。


「ム……トさぁん」


 なんだか先に宿に帰ったはずのメディーが近くにいるように聞こえる。


「おや、ムート。メディーちゃんが走ってきましたよ」


「えぇ……本当だぁ」


 ムートは重い腰を浮かせてメディーに手を振る。近づいてくるメディーの顔はなんだか切羽詰まったような、泣き出しそうなそんな顔をしていた。


「ムートさん!」


「メディーいいところに、タオフーと一杯やっててさ、きみもどうドリンクなら……」


「宿でアイリスさんとチルトさんがいがみ合って大変なことになってますぅ!」


 呼吸を整える暇もないのかメディーは私の腕を引っ張った。


「それはまずい!」


 私は一気に酔いがさめて咄嗟にタオフーを振り向く。


 彼はこうなることを予想していたのかにんまり笑って、


「ねっ言ったでしょう」


 嬉しそうに言った。











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