魔導士ディーラー女神さまと再会するそうです。
モンスターハウスを切り抜けたわけだが、完全に森の中で迷ってしまった。もはや日没までの猶予はない、陽が傾き始めた頃から私は来た道を戻ることもこの先を進んで森を抜けることも諦めひたすら少女を抱えて森を歩いている。そこらかしこからいくつもの視線を感じていたが、魔物たちが私たちを襲うことはないだろう。
少女の魔法の効果で私のレベルは格段に上がっていたのだ。まぁレベルが上がっても戦闘タイプではないので私はレベルの恩恵を受けないのだが、何も知らない魔物たちはよほどのことがない限りあちらから攻撃を仕掛けてくることはない。ただ狡猾な魔物たちは私の体力が限界を迎え完全に動かなくなることを望んでその時を今か今かと待っている視線は常に感じ取れる。
だとしたらなおさら体を鍛えておけばよかった。少女を抱えリュックサックを背負いながら不規則な森の道を歩くのはしんどい。 寄る年波には勝てないなんて思う時がくるとはなぁ。
額に滲む汗を片手で拭いながら私はどこかにある力のたまり場を探していた。これだけ広範囲に侵食した森には必ずその源となる龍脈。パワースポットがあるはずなのだ。
「忌々しいなぁ、これだけ歩いても魔物の気配が消えることがない」
私は恨み節を垂らしながら薄暗くなった森の中ではぁはぁと息を吐き立ち止まらずにいたが、空腹と疲労で意識が飛びかけていた。今ここで腰をおろしたら数体の魔物に狩りつくされる可能性が高い。
なんとしても歩き続けなければならないが、はやる気持ちと裏腹に体力は底をつきかけていた。こんなとき体力回復の魔法を自分自身にかけることができたらと思うと気が病んでくる。
私は所詮誰かのサポートしかできないモブで主人公なんて者とは程遠い場所にいる一般人だった。
あぁ目の前に十字架が見えてくる。
それが錯覚だと分かっていても諦めることができない自分に腹が立っていた。爽快感がまるでないべたついた汗に身を纏いため息を吐きながらとぼとぼ歩く。
こんなときせめてあの女神に縋りつけるような強い人間であればどれほど楽にこの世界を過ごせていただろうか。
自虐に浸っていると先ほどまで張りつめていた緊張感がどこかに飛んでいったようになくなっていた。私は自分でも知らない間に目を瞑り孤独の中を進んでいた。それがいけなかった。
私はいつの間にか平衡感覚を見失って足先がどんどん右側にずれていたのだ。
「あっ」
目を開けて進行方向を修正しようとしたときには片側の足が地面を滑らせていて、私は小さな叫び越えとともに斜面を転げ落ちていた。私は反射的に少女の体を強く抱き寄せ無抵抗のまま斜面を転がっていく。
目まぐるしく変わる視界の先。もはや地面なのか空なのか分からないまま私の意識は遠のいていった。
「徹」
「武笠徹」
「目を開けなさい」
どこかで名前を呼ぶ声が聞こえる。
私は重い瞼をゆっくりこじ開けながら声がした方角に顔を上げた。
「なんだここは?」
目の前には数えきれないほどの神々しい光を放つ星々とその光を飲み込んでしまうほど巨大な宇宙が広がっていた。
恐るおそる下を覗いたがそこに地面なんてものはなくその空間にふわふわ浮かんでいるに過ぎない。
「えっと魔物たちと戦ってからひたすらに歩いて油断して崖から落ちたところまでは覚えているけど……」
それからどうなってこんなところに来たのかがなかなか思い出せずにいると、真後ろで炎が燃え上がったような音が聞こえ振り返れば目を覆うような光に包まれた。
その光の中からこちらに向かって歩いてくる人影を懐かしく感じたがすぐに嫌悪を顔に出していた。
「なんのようだよ、女神アナスタシア」
「あら、久しぶりの再会なのにあなたは相変わらず冷たいのですね」
アナスタシアは寂し気な口調とは正反対の微笑むを向ける。
「あなたにとってはとても良い話しを持ってきたのですが」
「良い話しだって?」
私は両手をがっちり組んでアナスタシアを見据えた。
彼女は悪戯っ子のように口元を緩めて言った。
「転生者武笠徹。あなたに勇者の力を与えましょう」