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魔導士ディーラー 魔導具メーカーと再会するそうです

 やるせない気持ちを抱えたまま私たちは、大通りを並んで歩いていた。


「あなたがショックを受けてどうするです?」


 タオフーは気落ちした私の肩を叩く。


 メディーは空気を読んで先ほどの話には一切触れてこなかった。


「それにそんな顔をしているとまたよくわからない宗教団体に勧誘されますよ」


「そうだな、そればっかりは嫌だ。あぁ昼飯はなにかなぁメディー?」


「はぃ、とっても楽しみですぅ」


 無理やり作った笑顔を晒しながら闊歩する。不幸は不幸を呼ぶというし、こんな顔ではマリアに会うこともできない。


「ムート、私はちょっとショッピングしてきてもいいです?」


「分かったじゃあ付き合うよ」


「いや大丈夫です、その後に用事も片付けないとなので」


「あぁ……分かったよ、でも昼飯は?」


「適当にその辺で食べますよ」


 ルンルンと本当に口で言いながらスキップして前を歩いていくタオフーは十歩歩くたびに男性たちから声をかけられていた。


 軽くあしらいながらも満更でもない笑みを浮かべる。


「私動きやすい服が欲しいです」


 金持ちそうな男の口説き文句をあざ笑うようにそう言って服屋に入っていく。


 ステントガラス越しにタオフーが選ぶ服はどれもドレスコーデであり、しなやかな肉体をさらけだして、外の男たちを悩殺していた。


「ムートさぁん、タオフーさんひとりにしてよかったんですかぁ?」


「いいんだよ、あの人はああやって反応楽しんでいるだけだから。それよりさっきから何をそわそわしてるんだい?」


 さっきから落ち着かない様子のメディーは何か言いたげに私のそばに来ては離れを繰り返していた。


 特に意識はしてはいなかったがタオフーの待ちぼうけをしている最中もずっと隣で視線を合わせようとしていたようだ。 


「あのぉ、ムートさぁんもしかして森に行こうとしてませんかぁ」


「うん。と言いたいところだけど、私一人じゃどうにも……」


「だったら私もついていきますぅ!」


「メディーが?」


「はぃ、是非一緒に……ムートさぁんのお役に立ちたいんですぅ」


「そうか、ありがとう」


「は、はぃ」 


 何度も頷いて喜びを表現するメディーを横目に私は町を歩く。


 しかし本音では、パーティーを組んでそれなりに準備してからでないと、何の成果も得ず、最悪死ぬことがある危険な魔物の森だ。


 正直タオフーを連れていければ心強いが、タオフーにも目的があって、強引にこちらの都合に合わせてもらうことは難しい。


「メディー、私は魔法石がなければその辺のちんぴらよりも弱い。だからそれなりに準備しなくては……最低でも魔道具が必要だ」


「この町に売ってますかねぇ」


「まぁ魔道具は購入するとして、戦闘員と……同行してくれる魔道具メーカーかぁ」


 しかも優秀な人材となると急ピッチで募れるものではない。さてどうしたものかなぁ。


「ムートさぁん、つきましたよ」


 そんなことを考えていると鼻先をランチ料理の良い匂いがかすめる。気が付けばすでにマリアの宿屋に到着していた。


「まぁ腹ごしらえが先か」


 扉を開ける。来店を告げる鐘がなると、奥のテーブルで私を見たボーイッシュな女性がぴくりと眉を動かした。


「あっ!」


「あっ……じゃないっすよ」


 この瞬間、どうしてヨダカの町に寄ったのかすべて思い出した。と同時に先ほどまで懸念していた悩みの種の一つが解消される。


「ベ、ベルリー!」


「じゃねっす! あれからアップルフォンも繋がらないし、本当に心配したんすからね!」


 顔を真っ赤にしながら私の腹を小突いてきたのは、魔道具メーカー、グットマン商会のベルリーだった。


「ご、ごめんいろいろあり過ぎてアップルフォンに魔力を充電すること忘れていたよ」


「それ、非常識っすよ」


 顔をしかめるベルリーのぐうの音もでない一言に面食らって撃沈する。


「あれ、マリアは?」


 いつもだったら厨房から顔を出してくるようなシチュエーションにマリアの声が聞こえない。


「女将さんのことっすか? 先ほど外にでましたっす。デザートをもらったんで留守番を……」


「あぁそうか」


「って、そうじゃなくてもう本社では話が通ってるっす! はやく最終試験会場へいくっすよ! うん?」


 ベルリーの言葉が詰まったのは、私の傍らで固まっているメディーの存在に気が付いたからであろう。びっくりしたように私を凝視している。


「この子は?」


「魔導士様だ」


「魔導士様って、えっ、もうパーティ―を組んだんすか? 魔道具メーカーへの転職は?」


 錯乱するベルリーに唖然とするメディー。


「そのぉ、ムートさぁんこの方は?」


「あぁそうだった。彼女は魔道具メーカーの営業マン、ベルリー。勇者パーティーにいたときに一緒に仕事をしていた仲間だ。ベルリーこちらは魔導士のメディー」


 私はメディーの背中を軽く叩き、ベルリーにウィンクする。


「はっ……魔導士様。ぼくは魔道具メーカーグットマン商会にて、最高にクールで迅速な対応が売りの凄腕営業マン、その名もベルリー。よろしくっす!」


 突然の語り草に目を丸くしたメディーを見て思い出す。


 そうだった、ベルリーのところはこうやって自己紹介することが定められていた。


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