魔導士ディーラー 街の異変5
あぁそうだ。この不器用なダンカンの笑みに私の心はいくらか救われたのだ。
「ダンカンさん、いろいろ聞きたいことはあるけど、チルトは?」
「……チルトは今大きなクエストの討伐メンバーを選考していて忙しいんだ」
「討伐メンバー?」
「まぁせっかく来たんだ、お茶でもだそう」
☆☆☆
「ムート?」
タオフーは私の太ももを軽く叩いた。
あんまりなことに私は直前の記憶が飛び話の脈絡が分からなくなっている。
「大丈夫か」
ダンカンは心配そうにコップにおかわりの水を注いだ。
一気に飲み干して記憶をちょっとずつ呼び戻していく。
「森に住み着いたドラゴンが他の魔物を支配下において町の子どもたちをなんらかの方法で森の中に誘発している可能性があるのはわかりましたけど、さきほどのチルトの話は本当ですか?」
「本当だ、チルトはギルドリーダーを失脚した」
「どうして、彼のスキルがあってクエストに失敗するなんてありえない」
「チルトのスキル、死の鱗粉のことだろう。あれは大勢で戦うには分が悪すぎる」
スキル名。死の鱗粉。通称ジャッジメント・パウダーは対象にかすり傷のひとつでも与えれば致命傷になる効果がある。
例えば、塵のごとく小さなガラスの破片を大量に空中へまき散らし、対象者の皮膚、肺胞を傷つける広範囲無差別殺傷攻撃をしかけることも可能だ。
「ただ結果的に率いていたメンバーは、チルト以外負傷した。死者は出なかったものの、お上は結果しか見ないからな。その責任をとらされたんだ」
どちらかと言えば呪いに近いそのスキルは対象相手が魔物であろうがなんであろうがどんな小さな傷でも与えれば致命傷になり苦しみながら死亡するという恐ろしいものである。
私は一度だけその技を見たことがあるが、喰らった魔物はわけも分からず攻撃を受けた数秒後に息絶えた。
「たがチルトはこの町の優秀なガードであることは変わりない。忙しい中でも第二陣の救助メンバーを各地から集めているよ」
「その……討伐メンバーにアイリスは入っているのですか?」
「いや、彼女は入らないだろう」
ダンカンは机に肘をおきため息をつきながら俯いた。
「アイリスはそれが気に入らないようだけどな……、しかし一刻も早くドラゴンを討伐しないとまずい」
「なにがまずいんです?」
首を落とした状態で首を横に振る。
「討伐にしくじったギルドの求心力はガタ落ち。さっきの連中をみただろう魔導国の怪しげな新興宗教団体が人々の不安を餌に勢力を増していまややつらの施設が建ってそこらかしこにたっていやがる」
「……親愛なる魔女の集い?」
タオフーが口をはさむ。
「そうだ、よくあの表札の文字が読めたね。綺麗な姉ちゃん」
綺麗と褒められたタオフーはまんざらでもなさそうに、
「いろいろな国の人種、文化に触れてこその易者なので」
と控えめに言って鼻の頭をさわった。




