魔導士ディラー 街の異変4
「そんなに落ち込まなくてもいいじゃないですか」
ショックだった。
よく晴れた蒼い空の下であからさまに落ち込んでいた。
「悲しい顔をしないでくださぁい、きっと気が立ってただけですよぉ」
私は地面を眺めながら顔のパーツを中心に寄せ首を傾げる。
しっかり顔を合わせたのは二年ぶりだがアイリスが私を忘れているわけがない。
チルトから妹だと紹介をされたとき、彼女はチルにぃが誰かを家に招いたことはないと驚いていたのだから、印象には強く残っているはずだ。
しかし、こんな辺境の田舎にて陽が明るいうちから宗教勧誘なんて二年前まではなかったはずだ。
やっぱりおかしい。
アイリスが私のことを覚えてないと言ったことと絶対に関係あるはずだ。
そうでないとショックで倒れてしまいそうになる。
「そんな情けない顔をしない、ほらギルドが開きましたよ」
顔を上げる。
大理石の建物。
ギルドマスターのダンカンに会えばなにか掴めるはずだ。
「あなたたち冒険者?」
横から飛んで来た声に扉へ伸ばしかけた手をひっこめた。
いつの間にか近づいてきた女性はタオフーを睨みつけた。
「さきほどはどうも」
「どういたまして♡」
おそらく先ほどの宗教勧誘の邪魔をした当てつけだろう。あの集団のリーダー格といったところか。
「あなたたちは呪われているわ」
「呪われている?」
メディーは圧倒されていたが、私はその一言に引っ掛かりを感じて復唱する。
「でも、心配いらないわ、このグレイテスト・マミーの魔力がこもった壺を買えばたちまち呪いは払われ、今後八代先の子孫は救われます」
女性は到底信じることができない根拠のない言葉を並べ早くでまくし立てる。
その言動は不自然そのものであり、言いようのない狂気すら感じさせた。
「グレイテスト・マミーのご加護を……」
「おい、まだ宗教勧誘が許された時間じゃないだろう」
被せるように言われに女性はそのまま腕を掴まれた。
自分の太ももほどの厚みをもつ傷あとだらけの太い腕とリンゴなら簡単に握りつぶせそうな大きな手。
「ダンカンさん!」
「くっ邪魔が入りました」
捨て台詞を残して退散する女性の背中が見えなくなるまで睨みつけたダンカンはようやくこちらを振り向いて笑う。
「大丈夫かムート」
優しい言葉遣いに思わず頬が緩んだ。
表情を戻しながら体ごと向きを変えしっかり彼の姿を見据えた。
「お久しぶりですダンカンさん」