魔導士ディーラー 街の異変2
「ムートさぁん?」
みなが声を上げた方に目線を向けるなかメディーだけは私の顔を凝視していた。
「落ち着いてください、わたしたちはあなたたち兄妹を幸福へ導くための……」
「黙れ! 貴様らこれ以上チルにぃを侮辱することは許さない」
チルにぃという言葉に私は懐かしさを覚える。二年前とは雰囲気も顔つきも変わっていたが、陽に焼けた褐色肌にくりっとした丸い目。一度染めたであろう茶髪の残骸が黒髪に埋もれたセミロングの髪。
なにより腰に携えた刀剣に面影がある。それはこの世界の武器としては珍しく反りがありまるで日本刀のようだ。
「アイリス」
つぶやいた。彼女は私の友であるチルトの歳の離れた妹、アイリスだった。
彼女は一瞬私がいる方に視線を向けたがすぐに目の前の相手に殺気を飛ばして刀剣の柄に手を置いている。
「あなたたち兄妹は呪われているわ。わたしたちはあなたとあなたのお兄様の呪いをとき救済したいだけ、グレイテスト・マミーのお導きをあなたに伝えたいだけなの」
「……もういい、もうたくさんだ。今すぐ貴様らの首を斬って花束をくれてやる」
まずい、私は無意識に走り出し彼女たちがいる席に向かった。
アイリスは腰を落とし上体を低く構えている。もしあの鞘から刀身が少しでも見えたとき、彼女の間合いにいる全員の首が飛ぶ。
「アイリスやめろ!」
彼女は目を見開いて柄を握る右手に力が入る。しかし私の声は彼女には届かない。
今さらながら中途半端に間合いに入ってしまったことを後悔し目を閉じる。一秒にも満たない時間が流れた後この店は血の海と化すだろう。
「好了、好了。その物騒なものを収めろください」
目を開ける。アイリスの右手に手を添えたタオフーは優しく笑っていた。
「タ、タオフー!?」
「ひどいじゃないですか、私を置いていくなんて」
「なんだ貴様は?」
行動を止められ不服そうに睨み返すアイリスだったが、再び柄を持つ手に力を入れるが刀身はまったく動かない。
タオフーは彼女の手の上に自らの手を添えながら振り返り、彼女が怒りを向けていた二人の中年女性に丁寧な口調で言った。
「朝早くから宗教勧誘とは精がでますね」
トゲがある言い方に女性たちは目を吊り上げる。
「その言い方はあまり気持ちの良いものではありませんね、邪魔しないでくれますか私は彼女を救うために活動しているのです」
臆することなく言い切った女性の一人は感謝もせずにタオフーに突っかかってくる。しかしタオフーは表情ひとつ変えずにメディーを見つめると、
「でしたら是非ともあちら席でゆっくりと私をお救いください」
そう言った。
「もうそんな気分ではなくなりました」
中年女性たちは不満そうな顔をしながらカフェを出て行く。残されたお客はあまりに突発的な出来事に困惑しながらもできるだけこちらに関わらないよう、目を伏せたり、どっちでもいいような世間話の続きを始めていた。