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魔導士ディーラー 交渉するようです。

「そんなバカな、どうして町に入ることができないんだ」


 私は思わず声を荒げた。しかし門番は表情をひとつ変えずに先ほどから同じことを繰り返す。


「怪我人を救出してくれたことは感謝している、しかし冒険者やその関係者でもなくクエスト依頼の要請もこちらから発行しているものでなければ入門許可書を提示することはできない」


 ヨダカの町の正門前で、私たちは突っぱねるようにそう言われた。


「た、たしかにクエストの要請は受けてないけど、でも困っているんだ。なんとか助けていただきたい」


「すまないが、それはできない」


 歳は私よりも一回りくらいうえの中年の男で、体に鉄の鎧を装着していることからこの街の守衛ガードの一人だとわかった。


 しかも彼の傍らには、剣や杖といった武器を持った数人の守衛がいた。


 その人数の多さは異常だ。


「まってください、どうして守衛が揃いも揃ってこんなにもたくさん? この町には魔物除けの結界が多く廻られているはずだ」


「その結界が破られた」


「まさか……冗談でしょう?」


 周囲の態度から察するに冗談ではないようだ。


 男は目線を外さずに正門の先を親指でさす。夕暮れで薄暗くなった町の様子が見えた。そこにあったのは争った形跡があるかつて誰かが住んでいたであろう燃えおちた家と荒れ果てた畑と崩れた案内所。


「見ただろうこのありさまだ。ほっとけば魔物も悪人も町に入り込んでしまう、被害をこれ以上増やさないためにも町が発行した許可証を持たない外部の者は入門を許されていないのだ」


 腕を組み頑としてその先の道を譲らない姿勢を保っていた。


「結界師様に何かあったのですか?」


 私の質問に男は首を横に振った。


「部外者にそれ以上の詳しいことは言えん、さぁさっさと去ね」


 詮索はさせないと強張った顔で手首を振る。


「……ではチルトを呼んでください。彼は私の友人だ」


「だめだ。リーダーはお前たちには会わん」


「あなたには聞いていない、チルトに会わせてくれ」


 そこから町に入れろ、入れない、チルトを呼べ、呼ばないの押し問答が数十分続き、こちらが悪意あって街に入ろうとしていないことや、魔物の手先でないことを伝えても一向に信じてはもらえなかった。


 それどころか正門前には守衛の数が増え、何人かは武器に手をかけて攻撃のタイミングを計っているようにも見える。


 ――まずいな、これ以上暗くなったら野営の場所を見繕うのもきついぞ。


 私はこの話が通じない守衛と交渉しながら妥協案を探し始めようとしたその時だった。


「どうした?」


 聞き覚えがある声に男たちは振り向いて姿勢を正す。


「リーダー、この輩が……」


「チルト!」


 私が声をあげて手を振るとマスターと呼ばれた青年は一瞬で頬を緩めた。


「輩ではない、彼は俺の友人だ。丁重に扱え」


「し、しかし」


「俺に恥をかかせるつもりか?」


「いえ、そんなつもりは」


「それともう俺はお前たちのリーダーではない」


「……」


 中年の守衛を下がらせたチルトは私たちの方に身体を向きなおした。


「行方不明の少女の救出ありがとう、それとさきほどはすまなかった」


「いやいいんだ、それよりこれはいったい……」


「詳しいことは明日ギルドで、そのとき許可書も発行しておく。今日は宿に泊まって身体を休めてくれ。場所は分かるな、お仲間もつれて早くいけ」 


 私は頷くも、もやもやしながら、メディーとタオフーとともにギルド直営の宿屋がある東地区に足を進めるのだった。


  懐かしい扉を開ける。明るい店内に視界を照らされ奥でツインテールの茶髪が目に入ってきた。店じまいの準備に取り掛かっていた彼女は来客に気が付いて、くるりと回転しツインテールを揺らした。活発そうな雰囲気の少女が私を見た。


 咄嗟に営業スマイルを浮かべた彼女の瞳に、驚きの色が映る。

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