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魔導士ディーラー 魔法石の加工方法を伝授するそうです。

私はスッと目を細めて、タオフーの手の平に包まれている石を見定めていた。


 こうして改めて向かいあっても、やはり分からない。昨日半日かけて魔法石の加工方法をレクチャーしただけでこうも完璧に近い魔力をコントロールして注ぎ込むことができるのだろうか。


 センスがいいとか、悪いとかそういう問題ではない。もちろん私の教え方が良いとかそういう問題でもないわけで、こうも完璧に私の十年を再現されるとこの心の奥にどっしりのしかかる敗北感は計り知れなかった。


「どうでしょうか?」


 パカッと右手を上げた時に見えた魔法石の結晶は綺麗なひし形で朝焼けに照らされ輝いている。


「す、すごいですね、この短時間でこれだけ見事に……魔法石の加工ができるようになるなんて。ハハもう教えることないなぁ」


「フフっ。先生の教え方が上手いからですよ」


 そう言われても皮肉にしか聞こえないほどの出来だった。


 というか武術の習得と資金援助の等価交換で魔法石の加工技術なんて教えなければよかったとさえ思っている。


「タオフーさんはそのそういうスキルをお持ちの人なんですか?」


「タオフーさん? タオフーでしょムート」

 ついさんづけで呼んでしまうほど動揺してしまっている自分の器が小さくて恥ずかしい。


 タオフーは一度目線を外した。きっと私のそんな心情も見透かして呆れているんだろう。


「いいえ、私が与えられたスキルは別にあります。これはただの特技」


 しかし再び顔をあげた彼は少し悲しそうに笑って言った。


「特技って……それある意味スキルよりもすごいことですよ」


 ため息混じりの自虐笑いする。つられるようにタオフーも笑みを零すがすぐに眉にしわをつくり口を瞑んだ。


「どうしました?」


 タオフーのとても悲し気な表情に思わず声をかけた。


「すこし、前の世界の話しをしてもいいですか?」


 私が頷くと彼は空を見上げながら噛みしめるように話し始める。


「私は、この才能を生かすために古い歴史を持つ格闘技のある流派に入門しました。同門からはパクリ屋だのとさんざんねたまれましたが、私は動きの基礎だけを学べば技術は師範の真似をすれば得られますから……やがて誰もが認める存在になった私は流派の後継者候補に選ばれました」


「それはすごいじゃないですか」


「そしてそのときに流派の長に選ばれた者だけが伝授される奥義というものが本当に実在することを知りました。くだらない噂話だと思っていた私は心底驚き、そして期待したのですよ。その条件が流派の後継者候補同士の殺し合いで生き残ったものに伝授されるものと聞いてましたから」


 生唾を飲む。まさかそんな話が前の世界で、しかも同じ地球上で起こっていたなんてまったくしらなかった。  


「それで、タオフーさんは生き残ったのですか?」


「ええ、条件を達成した私は流派の師に奥義を伝授されました」


「そんな漫画みたいな話が本当にあったとは?」

 無意識に力が入る。


「フフ、驚きましたよ。奥義というのはただのイカサマテクニックだったのです」


 しかしタオフーからの答えは身構えた体を脱力させるものだった。


「相手に悟られない武器の隠し方、公式戦での八百長、観客を喜ばせるマイクパフォーマンス、ただの手品の数々。凡人たちにいかにして自分のところの流派が偉大かということを知らしめるためだけの手段だったわけです」


 突拍子のないネタバラしに私は唖然としたが当事者のタオフーはもっと拍子抜けしたに違いなかった。


「今だったら笑い飛ばして終わりです。それでみんなが幸せになれると知っている今の私ならきっとそうします……でも当時の私は少々純朴すぎた。同門を手にかけ死ぬ思いをしてまで手に入れた真相に怒ってしまった。若さとはときに人を愚かな方向へ走らせる。いやそこに至るまでに苦労が足らなかったと言えばそれまでですが、しょせんはパクリ屋の枠から飛び出すことができなかったのです。私は後継者の地位を断ってなだめる師に真相を世界に公表すると喧嘩を売ってしまったんですよ。そこからはご想像の通り大きな争いが起き、大勢の者の命を奪い、奪われ、あるいは永遠に消えない傷を負いました。私もその一人です」


「消えない傷?」


「フフフ、いずれムートも自分にとって都合のよくない真実にたどりつくかもしれませんが、だとしても私のように短気を起こさないで欲しい」


「怖いことを言わないでくださいよ、私は普通の人です」


「では、私はそんな普通の人にどうしてこんな話をしたと思います?」


 タオフーはいつも通りのにやけ顔で訊ねる。小首を傾けている私の言葉を待たずして答えた。


「ムートはこの世界を救う転生者になる可能性があるからです」


「わ、私がですか……まさか」


 予想もしない言葉に声も出なかった。タオフーは自分のステータスをオープンさせ職種の欄を指さして言った。 


「それだけではありませんよ、ムートあなたは昔の私によく似ている……ます」


「タオフーに? 私が?」


 自分に指をさして小首を傾げた。タオフーは微笑みながら頷いて、


「以上パクリ屋兼易者からのアドバイスでした。それじゃそろそろ……」


 立ち上がり背伸びをして私の右手を掴んだ。タオフーの身体の中に流れる魔力の流れを感じる。


「武術の鍛錬といきますか!」


☆☆☆



「そうその動きです」


「押忍!」


「あぁダメダメ、返事なんていいですから集中しろください」


「お、押忍。あっ」


 容赦なくタオフーの蹴りが飛んでくる。私は一連の動きの間で咄嗟に右手を蹴りの前に出した。


「むっ」


 短い声を発したタオフーの蹴りは私にクリーンヒットすることなくはじかれた。


「ふぅなんとか間に合いましたね上出来です。やはり才能があるましたか」


「はぁはぁ……今のは一体?」


 私は今の出来事に目を疑った。防御のために出した左の手のひらから青いオーラの塊のようなものが飛び出してタオフーの鋭い蹴りをはじいたのだ。


「ムート、これが魔力をエネルギーにかえあらゆる攻撃をはじき無効化する術です」


「しかし、どうして私にそんな力がだって魔法や魔術は使えないのに」


「それはこの技術が魔法や魔術とは格別したものだからです」


 タオフーは円を描くような腕の動きから数メートル先にあるブラウン管テレビほどの岩に向けてパンチを放った。


 パン!


 凄まじい破裂音。頑丈な岩はポップコーンのようにはじけ飛んで四方八方に四散する。


「見えましたか?」


「えぇ、青白いオーラがぼんやりですけど……見えました」


「そう。これは魔力の具現化なんですよ」


「具現化?」


「そう。本来ならば、身体に流れている魔力は魔法や魔術に変換してこそ目に見えるエネルギーとしてこの世界に存在するます。ただ魔力は私たちがいた世界で言うと気そのものなのです。これをそのまま世界に存在させるためには自然にあふれる魔力と自らの魔力を練り合わせ一体化させる必要があるます」


 タオフーは飛び散った岩のかけらを両の手のひらで包み込み数秒後、開いた。そこには小さな魔法石のかけらがあった。


「この原理が分かっていれば、あとは一流の加工技術を見てコツさえつかめば会得は可能。ムートはこの逆なのですよ。だから私が会得した魔力の具現化を再現することができますです」


「し、しかしそんな考え方があるとは知りませんでした。私はこの世界に十年もいるのに」


「それは私も同じ。魔法石の加工技術なんて知りませんでしたよ。でも今の動き、これを意識して鍛錬に励んでください。基本的なことはお伝えしました。ムートこれからどうしますか?」


 私はタオフーに一礼する。


「あんまりここに長居するわけにもいきません。これからこの森を抜けヨダカのギルドにいきますよ。そこには顔なじみもいますし」


「でしたら私が護衛しましょう。実はその町に用事があるですよ」


「それはありがたいです」


「あのぉムートさぁん」


 メディーが泣きそうな顔をして私たちを眺めていた。 


「あのぉ、そのぉ」


「どうしたメディー、出発の時間になったから呼びにきてくれたんだろ?」


 口をもごつかせ煮え切らない態度のメディーに私は優しく言葉をかける。


「ご、ごめんなさぃ、私ぃ何度も呼んでいたのですが、そのぉ」


「どうしたの? 別に怒らないからはっきり言ってよ」 


 そういうとメディーは観念したように口を開く。


「あのぉ~もう出発時刻をすぎてますぅ」


 三人で空を見上げる。太陽は高い位置からさんさんと地上に降り注いでいた。




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