魔導士ディーラー 謎を紐解くそうです。
メディーの寝顔に癒されて、
ようやくタオフーの謎に迫る。
「昨夜からずっとあなたに付きっきりで疲れたんでしょう」
お腹を満たしてうとうとしていたメディーをベッドに寝かしつけ終わりリビングに戻ってきたタオフーは呆れ気味につぶやいた。
メディーの健やかな寝顔に癒され余韻に浸っていた私はハッとした。
慌てて淹れてくれたお茶を飲み干した。
「にがっ」
「我猜マンドラゴラの葉をすりつぶして作った漢方茶ですもの」
悪戯な笑みを浮かべ同じものを無表情で口に含む。
「麻痺に効く薬なので飲んでくださいね」
「は、はい」
揺るぎない碧色の瞳が容赦なく睨む。これは誤魔化すことは無理そうだ。
「そう言えば自己紹介まだでしたね、私は張・桃虎。お察しの通り転生人ですよ。役職は易者。わかりやすく言えば占い師ですね」
「ご丁寧に……私はムート。転生人です。でもどうして転生人のあなたは本名を名乗っているのですか?」
特別な力や役職がない者がこの世界で本名を名乗のはそれなりリスクがあった。
転生してチート級のレアスキルを宿すことができる私たちはたとえ勇者として結果を残せず帝国から戦力外の烙印をおされてもその類まれなるスキルと才能で富を得たり、有力な役職にジョブチェンジできたり、中には私の様にこの異世界で就職したりする者も多い。
それに伴って近年この異世界では大きな社会問題に発展していた。
毎年のように転生される異世界人が増えればこの世界にもともといた現地人の雇用や保障はひっ迫する。
雇い先をクビになって路頭に迷った者や充分な保障を受けることが出来なかった者、転生するために必要な儀式を実行するために国民の税金が上がって生活が困窮してしまった者もいる。
そんな彼らの怒りの矛先は私たちのような異世界転生人に向けられるわけだ。
魔王を倒す大義名分がある勇者パーティーにでも加わらなければ、偽名を使ってこの世界に馴染む方が得策であるから例え仲良くなった相手が転生人とは言え自分の本名は名乗らないのがこの世界のセオリーなのである。
「得に理由はないです、こちらで使う名前を考えるのがめんどくさかったからじゃだめですかね」
「め、めんどくさかった?」
「えぇ」
語尾を強めるわけでもなく平然と言い放った。
「タオフーさん、今のであなたがどれだけ強いかなんとなく分かりました。ではどうやってあのドラゴンから私たちを助けてくれたのですか? というかどうやって見つけたのですか」
私はそこが一番の疑問だった。潜伏スキルレベル3は身を隠すうえでかなり有力なスキルだ。スキルを発動している当事者は感じることができないが、一歩も動かず佇むだけなら周囲の空気や景観と同化しほぼ透明状態になる。身動きがとれない状態であの広い森の中から私たちを発見できる確率はサハラ砂漠に咲く一輪の花を見つけることよりも難しい。
「気の流れを感じ取ったまでですよ……それとタオフー」
「はぃ?」
「さんをつけるのはやめろください、きっとあなたと同じくらいの歳なので」
思ってもない言葉に呆気にとられているとタオフーは微笑みながら落ち着いた様子で席を立った。
「どうして私が本名でこの世界で生活しているかは口でいっても伝わらないと思うので外にでろください。じっくり説明しますよ」
晴れやかな笑みを零すタオフーの背中に続きながら席を立つ。
「あっ、でもお茶は飲み干してくださいね。タオフーはお残しを許しませんです」
「は、はい。一滴残さず飲み干すのでそのそんなに睨まないでくださいよ」
顔を歪ませながら苦すぎる漢方茶を口に運ぶ私の姿を嬉しそうにニヤニヤしながら眺めている。
「フフッ、ムートは面白いですね」
真顔も素敵だがやっぱり笑ってるほうが彼女のイメージにあうとしみじみ思った。




