魔導士ディーラー 謎は深まるばかりです。
誠心誠意の対応で事なきを得たムートだったが、
まだ少し痺れたままの体にむちをうってなんとか着替えた私はメディーに支えられながらリビングに入ると、美味しそうな匂いのスープが並べられていた。キッチンからタオフーの声が早口に「だいぶやつれてますですね」と聞こえてきた。
「そりゃあんな怖いことされたらこんな顔になりますよ」
「あら♡ そうですか、単なるコミュニケーションのつもりでしたのに」
タオフーは白々しく言ってから私たちが座る席を指し示す。
「好き嫌いはあるますか」
時おり文法がおかしくなる言葉を気になりつつも私はメディーと目を合わせ彼女が首を横に振ったので「お構いなく」と当たり障りのない返事をする。
「とうぞぉ」
タオフーがキッチンから出てきて、ハムエッグの皿を私たちの前に置いた。そっと目配せして含み笑いで頷く。
私には何を伝えたいか分からないので怖かった。
オーブントースターのタイマーが鳴る。
メディーは訝し気に音がした機械を見つめていたが私はその余韻を懐かしく感じていた。
タオフーは焼きあがったパンを取り出すしぐさに紛らわせて、「メディーちゃんは見たことなかったですか?」と言った。
「あぁはぃ、そのぉこれはぁなんという魔道具なのでしょうかぁ」
「これは魔法以外でパンを焼くためにつくられた魔道具なのですよ」
「はふぇ」
メディーが不思議な表情を浮かべるのも無理はない、この異世界ではなんでも魔法やスキルで大抵のことは解決できてしまうのだから、こんな限定的な道具を理解できるはずがないのだ。
話の接ぎ穂を失ったメディーにかまわず私は手渡されたトーストを口に運んだ。
「おいしい」
素直な言葉が出た。スープも素朴な味付けで体の芯から温まる。
「よかった、おかわりあるますよ」
さっきまでビンビンに張っていた緊張の糸がたゆんでいく。
そうすると彼女の笑みもまた違って見えてくるから不思議である。
口の中が充実しお腹が満たされたら今度は向かい合って座る美人のことを知りたくなってしまう。
第一あのピンチの状態からどうやって二人を救出したのか謎だし、それにあの威圧感は勇者とも魔物とも違う。
おそらく何かのスキルか魔術の類だろうがメディーのように完全な異世界の人とも違う。
十年間も異世界を放浪しているのに実態がここまでつかないことも珍しい。
「いいですよ。教えてあげます」
「えっ」
「ご飯食べたら気になっていることを教えてあげます」
意味ありげな笑みを浮かべるタオフーに咀嚼をいったんやめた。
――あれ? 今口に出てたか、いやトーストを口に頬張っていたのだからそんなことはなかった。じゃあどうしてこの人は私が疑問に思ったことを知っているんだ?
私が困惑し表情をしかめるほどタオフーの口元は楽し気に吊り上がった。