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魔導士ディーラー 未知との遭遇に情緒がおかしくなるそうです。

下着姿のメディーを押し倒し、

その現場を目撃されあらぬ誤解を招いたムートの結末とは?

「さぁ思う存分言い訳をいってみろください」


 かたことな口調であり、あくまで丁寧だが、絶対に言い訳を許さない雰囲気があった。


「ちなみにあなたが背負っていたリュックからいかがわしい魔道具も見つけましたよ。催眠種、滑り触手、着服溶解液……まったく、せっかく私の隠家に招いたのに、とんだ変態野郎だったネ」


 先ほどまでのどこか親しみを感じる話し方が嘘のように気を張りつめながら、パンツ一枚でベッドの上に正座している私を軽蔑の目で見ている。


「タオフーさん、ち、違うんですぅ。これはそのぉ私がいけないんですぅ」


 張りつめた空気感に耐えられなくなったメディーが割って入った。


 タオフーは無言のまま笑顔で頷くとすぐにこちらに顎を向けた。 


「えっとですね、これはその不可抗力というか」 


「ほう、そんな恰好で年端もいかない少女の上に覆いかぶさった男が不可抗力ですか?」


 後ろで揺んだ長い髪を触りながら、「もう一回死にます?」


 凜と微笑みながらその言葉は冗談に聞こえない。前髪の三房を三つ編みにし、肩まで伸びた髪は、艶やかな黒色であった。しかもその瞳はおとぎ話にでてくる神々のような碧眼で、立ち会わせたものを畏敬させる。


 一目見て敵う相手じゃないと分かる彼女は、端正な顔立ちの中にも親しみやすさが見え隠れした美人であったが醸し出す存在感はまるで別物だった。


「先ほどの言葉を撤回します、申し訳ございません。確かに私は彼女の上に覆いかぶさりもはや言い逃れはできません。ですが私は魔導士ディーラー、魔導士の彼女をサポートし、時には命を賭して守るが役目。そんな私が彼女に対して彼女が不幸になるようなことは決してしない、そこだけは信じてください」


 ただ黙って、言葉を受け止めていたタオフーの視線がまっすぐ私とぶつかった。


 私は思わず息を呑んだ。


 碧色の瞳は、まるでこちらのすべてを見透かしているようだった。


 人間としての価値を鑑定するようなタオフーの視線を受けながら、私は内側から蜷局の様に込みあがってくる感情の高鳴りに支配されそうになっていた。


 向き合えばなおさら分かる。あのドラゴンなんて比べ物にならない圧迫感。闘争にしても逃走にしても大雑把な二択の判断もさせてくれないほどの格上。


 この人相手に魔法石での小細工でどう立ち回れることができるかなんて一ミリも考えられないし、想像もつかなかった。


 ――なんなんだこの人は。


 未知なる力の持ち主に出会えた興奮と恐怖で思わず唇をなめる。


 そんな私の内心をよそに、メディーは再び私の体へ密着させてみせた。


「タオフーさん、ムートさんは悪くないですぅ、私が私がこうやって『手当』をして回復してただけなんですぅ、私魔導士なのに回復魔法が上手く使えなくてそれでぇ」


 たどたどしく弁解するメディーに虚をつかれてなにも反応することはできなかった。服の上からではあるが彼女の小さな胸の膨らみを肌に感じて私はようやく生気を取り戻した。


「だからぁ、ムートさんを責めるのはやめ……」


「ぷすっ、あはははははははは」


 その声はまるで琴を弾いたかのように澄み渡る笑い声だった。


 あまりの出来事に私は心臓が飛び出しそうになる。


 タオフーはそんなことをお構いなしに高笑いし、落ち着いたころくだけた口調で続けた。


「ごめんなさいね、ちょっとからかってみただけです。でもとてもからかいがあたですよ」


「はい?」


 間抜けな声を発した私を尻目に彼女は背中を向け扉の方に戻っていく。


 振り返りながら。


「あたたかいスープがあるますよ、着替えたらリビングに来てくださいな」


 そう言って部屋を出て行ったのだ。


 えっ、助かったの?


 私はまだしがみついたままのメディーをよそにきょろきょろと目を泳がせ全身が弛緩する感覚に襲われた。


「ムートさぁん」


「なんだいメディー」


「おきがえお手伝いしますぅ」


「いや、本当にこれ以上は勘弁してくれぇ」









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