魔導士ディーラー わいせつな行為を目撃されたそうです。
「ムー……トさ……ん」
「ムートさ……ん」
どこかで誰かを呼ぶ声がする。
嫌な上司の顔を思い浮かべ、心の中でカレンダーをめくった。
夏はとっくに終わっている。
目を開けるのが怖かった。
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ……」
私は必至にもがいていた、うめき声をあげながら手足をいたずらに動かしてみる。
柔らかいなにかに触れた。
とても温かくて安心する。
俺はその何かをすがるように強く抱きしめてみた。
「ムートさん……苦しい」
「うん?」
その言葉で私は目を覚ます。
少女は顔を近づけて、私の目を覗き込んでいた。
「……メディー?」
ほんの一瞬、メディーが泣きそうな顔で私を見て、私の視線を瞼で遮るように目を閉じて言った。
「よかったですぅ」
その言葉を聞いてようやく失われていた記憶がフラッシュバックする。
見慣れない天井が見える。几帳面に並んだ杉板の目までが良く見えた。
近くで何かを沸かしている音が聞こえてくる。
どうやらここはベッドの上らしいが私はあの状況からどうやってここまで来たのか。
いや、そんなことより……。
どうしてパンツ一丁で裸のメディーとシーツに包まっているんだ!
「もう体の麻痺はとれましたかぁ」
わきに裸のままメディーが座りなおした。
下から見上げるメディーの腕は細くしなやかな柱のようだ。
「ムートさんあれからぁ全然動かなくなってぇ、だからぁそのぉ『手当』をぉ……怒られるかもですけどぉ服を脱がしちゃいましたぁ」
下着を身につけながらどこか怯えたようにメディーは言った。
うん。それはいいんだけど、この状況を他の誰かが見たら私確実に捕まるよね。
そんで起訴されて豚箱にぶち込まれるよね。
額に汗を浮かべながら、私は目の玉を必死に動かして自分の衣服を探す。
「服……私の服は?」
なんだか悪いことをしているみたいだ。異世界ラノベではお約束の読者サービスシーンもいざ自分が当事者になるとムフフな気分にならない。ラッキースケベより困惑が勝つとはこのことだ。ある程度の社会性を身に着けた私ならなおさら世間体というものを真っ先に気にしてしまう。
まぁでも……歳が離れすぎッてこともあるかもだけど、そもそもこの世界では立派な治療なわけでやましい気持ちになる方がおかしいのだ。
綺麗に畳まれたシャツとズボンがメディーの座る横にぽつんと置いてあった。
私は起き上がろうと腹筋に力を入れシャツに手を伸ばした。
「ふぇ」「あっ」
まだ痺れていた右腕で自分の体を支える。
覆いかぶさるようにメディーと目が合った。
思いもよらない出来事に動揺しながらも彼女の瞳をしっかり見たきがする。まるでアーモンドをローストしたような透き通った赤みの橙色の瞳に吸い込まれそうになる。
「こ、これは……そのぉ」
早く謝らなければ。
冷や汗をかきながら弁明の一言を話そうと口を開けたときだった。
「你好、メディーちゃん相棒くんは起きましたか……おっと」
真っ白いカンフーウェアを着た髪の長い人物が目を細めてこのおかしな状況を達観していた。




