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魔導士ディーラー ?②

 ホームの電光掲示板は最寄り駅に向かう電車を表示した。


 あたりまえのように時計の針は夜中の十時を回っている。


 帰ったら十一時を過ぎることは確定していたが、会社近くのネットカフェに泊まるのは気が引けてやめた。


 週明けくらいは家に帰りたかった。


 ため息は周りの人たちにも聞こえてしまうほど大きくなっている。


 そんな時スマーとフォンが三回ズボンのポケットで震えたのだ。


 ピタリととまったスマホを取り出すと予想通り液晶画面には上司からのメッセージが入っていた。 


 めまいと吐き気がする。


 あんたが得意としている人格否定も昔の自慢話もはいはいと黙って聴いてやっただろうが、その時間がなければ事務処理をとっくに終わらせてこんな時間に帰ることもなかったんだよ。


 これ以上なんだって言うんだ。


 残業代もつかないで頑張ってんだよ。


 なんでも感染症のせいにしてんじゃねーよ馬鹿会社。


 もう帰ろう。


 もう帰ってしまおう。


 既読さえつかなければ追及されることもない。


 スマートフォンが振動する。


 既読が付かないからって電話してきやがった。あの上司。


 もうごめんだ。もうとてもいらない。


 私はスマートフォンの電源をスワイプし、そのまま鞄に放り込んだ。


 明日も始業前に呼び出されて罵倒から始まるんだろうな。


 嫌だなぁ、明日を迎えるのが。


 こんな日には思いっきり夜更かししたくなる。とりためたアニメや人気漫画の考察動画をYouTubeで見るのもいいだろう。


 だってとにかく寝たくない。寝てしまえば明日がくるのだ。


 私は瞼を閉じた。


 そんなときは決まって頭の中で都合の良い妄想を思い浮かべる。


 例えばあのアイドルの裸とか、どこか別の世界に転生して無双するとか。


 単純明快な温もりだけを思い描いていた。


 あれ? なんだかふわふわしてきたぞ。


 こんなに気分がよくなったのはいつぶりだろうか?


 別に酔っぱらっているわけではないのになんだろうこの高揚感は?


 周りの音が遮断されていく感覚。


 疲労感と騒がしさが充満する駅のホームにいるなんて考えられないほど、静寂な空間にいた。


 でも……


 もうすぐ電車がくる。


 もし目を開けたらまた現実に戻されてしまう。


 でも……


 このまま、心穏やかなまま、意識を失ったら?


 線路に落ちたら?


 どうなるかな?


 えへへ。


 もう一生会社いかなくてよくね?


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