魔導士ディーラー ?①
社畜の朝は早い。
素肌の上からシーツかけ、ズボンは昨日のまま。無論シャワーを浴びる余裕はなかった。
五分おきにセットしてあるアラームは鉛のように重くなった瞼をこじ開けるための呪文になり果てていて、もはや気持ちの良い朝を迎えるためのものではない。
最後のアラーム音をミュートして、うだうだと十分が経過してようやくその鉛のような瞼を開けるのだ。
しわくちゃの布団、乱れた髪の毛、口元にはよだれの跡がついている。
眠い、昨日は一日中寝ていたというのに、月曜日を迎えると嘘のように体が重くなって眠くなる。
なんでこんなにも日曜日というものはあっという間に終わるのだろうか。
まだ半開きの視界から空気の読めない太陽の光だけが輝いて、俺は殺意を込めて睨みつけていた。
太陽なんてなくなればいい。ずっと真夜中でいいと思った。
そうすれば全世界の人が迎えたくない朝を迎えなくていいというのに。
ぼーっと黄色のカーテンを眺める。
起きなくちゃ、
始業前にやらなくてはいけない仕事が山ほどある。
拳を固め、力任せに起き上がった。
しかし数秒後、ガクッと全身の力が抜けて俺の上半身はこの星の重力に導かれるようにベッドに落ち、汗臭い枕に顔を埋めた。
「はぁはぁ……」
頭の中をいろんな思いが駆け巡る。
仲が良かった同期が鬱になってやめた。
悲しい。
営業ノルマが達成できず上司から毎日のように罵声をあびる。
苦しい。
しかもその罵声が終業後二時間以上も続いて残業になる。
つらい。
そんな自分が情けなくて一生懸命頑張ってノルマを達成したのに業績が悪いからと給料を下げられた。
悔しい。
こんなにやるせない朝を迎えるのはもうたくさんだった。
「ううううぅぅぅぅう」
うめき声を上げる。
殺意を通り越した先に失意があった。
「行こう」
社畜スイッチが入る。
さっきまでの緩慢な動作が嘘のように無駄のない動きでシャワーを浴び身支度を終え、ワックスで髪を整えた。
鞄を手に持ち、モノで散らかった部屋を後にした。




