魔導士ディーラー 一難去ってまた一難くるそうです。
「メディー!」
私は五本の指に力を入れてがっしりとメディーの小さな手を手の平に収めた。
だがそれ以上に足で踏ん張りを利かせ地面を掴まなければ二人揃って空に舞い上がってしまうだろう。
「くそう!」
からの左手で掴めそうなものを探してみるがしがみつけそうな巨木や幹は都合よく手の届く範囲にはなかった。
私はそれでもなお粘ろうと重心を低く下げて下半身に力を入れたが、そこへ一層大きなオーラ―を乗せた突風が吹きつける。
「ま、まずい」
地面を掴んでいたつま先が離れる。
――ふっ飛ばされる。
瞬間的そう察した私は恐ろしく早いスピードで掴めるものを探していた。
そして、それは奇跡的に目の前に転がっていた。
それは自らが倒した熊のように巨大な魔物の太い足だった。
「ついてる!」
幸運に感謝し倒れ込みながら左手で足を掴み、ちぎれそうな右腕を強引に体へ引き寄せてメディーを胸で抱きしめ這いつくばった。
「ムートさぁん!」
彼女の言いたいことは分かっている。彼女を抱きしめるため巻き込んだ右手が思いっきり胸に触れていた。
「ごめん、でも我慢してくれ。あとで慰謝料でもなんでも払うから」
我ながらもっとスマートの言い方はないのかと思った。これではセクハラ行為をはたらいたうえに反省もせずそれどころかお金の力を使って示談で和解しようとするクズと同じじゃないか。
「い、いやそのぉ、そうじゃなくてぇ……」
メディーは何かを言っていたようだが風の轟音がそれを届かせてくれなかった。
「ふぇふぁに」
繰り返し聞こうと口を開けばタイミング悪く口の中に容赦なく風が入り込んできた。これでは意志の疎通もままならない。
息が止まるほどの突風の中、メディーは吹き飛ばされないように体を固くしていた。
私は、はちぎれんばかりに魔物の足を握りしめたがそれを邪魔するように小石や枝が肌を打ち、不規則な風の咆哮が鼓膜を震わせている。
数秒後、やっと収まった突風を確認すると私は覆いかぶさっていたメディーの身体から離れその隣に寝転んだ。
「はぁはぁ……大丈夫かメディー」
「はぃ……おかげさまでぇ」
「よかった」
私は大きく息を吐く。すると猛烈に喉の渇きを感じて嗚咽してしまった。
「ムートさん大丈夫ですか!?」
慌てふためいて私の顔を覗き込む。
しかし私はあまりの苦しさに背中を向け身体を丸くする。
「おぇおぇ」
と嗚咽を漏らしたが、そのおかげで唾液が口の中に溢れ出して渇きからは救われた。
「大丈夫、ちょっと口の中の水分が足りなくなっただけだから」
振り返って微笑んでみる。それでも彼女の顔は暗かった。
私は心配しなくてもいいことを伝えるために起き上がってみせる。
「もう大丈夫だってほら立って」
両膝をついていたメディーを立たせようと手を差し伸べたとき、メディーの表情が突如驚きに変わった。
「あ、あれはぁ」
「あれはって?」
震えた指で私の頭上の先を指している。
おそるおそる振り返って見るとメディーの指先には、太陽の光に反射した鱗が虹色に輝やく巨大なドラゴンが上空で悠然と翼を羽ばたかせていた。