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魔導士ディーラー 思わず本音が飛び出したそうです。

 メディーと朝ご飯の準備を始めたうえで問題がある。


 魚は串焼きにするとして塩がない。


 これは切実でどうしようもない問題だ。


 焼き魚を食すのに塩がないなんて……多分これ以上の悲劇は世界中どこを探してもないだろう。


 違約金がたんまりあるのに商店がなければ調味料のひとつも満足に買えないとは私たちはとことん無力だ。


 そんなことを心で嘆いてるうちに魚はいい具合に焼けてきた。


 メディーに手渡されるままに肥えた腹に嚙みついた。


 なるほど龍脈の魔力をいっぱいに含んだ虫や小魚を食べていた魚だけあってそのままでも充分旨味がある。


 メディーは黙々と食べる私を眺めて目じりが落としていた。


「なに?」


「いえ~そのぉお体とか痛くないでしょうかぁ」


「えっ、そういえば痛くない」


 言われてみれば斜面から転げ落ちたときに負った全身打撲の継続的な痛みはいつの間にか消えていた。


「そうか、これも手当か」


「はぃ、昨夜ずぅっと『手当て』をしましたぁ、直接肌で密着できなかったのでぇ心配したんですけどぉ」


「『手当て』って両手だけじゃなくて全身でもできるのか? そんなことどの魔導書にも書いてなかった」


「はぃ、私が考えましたぁ……でもこれって常に身体に密着させないといけないから、結局私は魔導士に向いてませんよねぇ」


「そんなことはない。メディーは良い魔導士になれるよ!」


 言葉を選ぶことを忘れありのままの感想を放ってしまった。


「そんなことぉ……私なんてぇ……」


「本当だよメディー、私はきみに身体だけでなく心も救われた。これはすごいことだ。私は魔導士ディーラーとしていろんな魔導士について仕事をしてきたけど心を癒す魔導士はいなかった。メディーのその優しさと努力は才能だ。今はまだつぼみの状態だけどきみの才能は魔導士を続けていればきっといつか花開く。メディー! きみは最高の魔導士になれる可能性を秘めているんだ……うん?」


熱弁する私の語り草にメディーは前のめりにした姿勢を正して、涙を流している。


「うぅ……ふわーん」


 空を見上げるように顔を上向きにして大量の涙を放出させる。


「は、初めてそんな嬉しいことを言われましたぁ」


 感情の高ぶりに魔力が混ざって、涙が宙を舞う。


 手に持った焼き魚にメディーの涙がかかって、私はちょっとだけ躊躇しながら魚をかじる。


「あぁ、塩っ気がちょうどいいかも」と口に出したが、少女の涙を調味料にして飯を食う大人を俯瞰して、最高に気持ちが悪かったので、無言で食べ進めた。


 

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