魔導士ディーラー 白魔導士に仕事を頼むそうです。
「おはようございますぅ」
「おはようメディー。昨夜はありがとう」
川の向こうから聞こえてきた声に私は手を振った。
メディーは乾ききった自分の服を着ていて私が渡したローブを手に抱えている。
「あの……そっちへ行ってもいいですか」
そこそこ離れているにも関わらずはっきり聞こえたのだから、彼女にしては珍しくお腹の底から出た声だ。
私は研磨の作業を辞めて立ち上げるとメディーは答えを聞く前に川を渡り始めていた。
「メディーついでに持てる分だけ石ころを拾って持ってきてくれ」
「わ、わかりましたぁ」
「頼んだよ」
「は、はぃ」
仕事を任されたメディーは嬉しそうに声を弾ませる。
テンポよく石ころを集め始める彼女を尻目に私は研磨を再開した。
左手で蓄えた魔力はさっそく身体に馴染んだ。
私は転生後の鑑定でなんのスキルも覚えておらず、魔道具なしでは技も魔法を繰り出すことはできない無能力者だが、しっかり恩恵は受けている。
その恩恵こそ、私が魔導士ディーラーとしての地位を確立するために超重要な恩恵。無限貯蔵だ。
勇者であれ冒険者であれ魔法や技を繰り出すときに魔力を消費する。消費した魔力は休憩や道具を使って回復することが可能だが、個人によってその魔力を貯蔵しておける容量が違うのだ。
どんなにレベルが高く経験豊富な冒険者でも魔力の貯蔵容量が少なければ大量に魔力を消費するSランク級の魔法や技を発動させることはできない。
だからこそ熟練の冒険者は自分にあったコスパの良い魔法や技を使用するのだが、どんなにセンスがあっても超えられない壁にぶつかる。
その点、魔力容量に制限がない私はどんな技でも魔法でも事実上は繰り出すことができるわけだ。
まぁでもそう上手くいかないのが、私の二回目の人生。
本来なら私が受けた恩恵はこの世界ではチート級、ただ私には自力で発動できるスキルや魔法の才能がなくせっかくの恩恵を有効活用できない。
鑑定士の鑑定でそのことが分かったとき、帝王様と大神官様は心底残念がられていたが、それ以上に私はショックを受けたという話は魔導士ディーラーとなった今ではいい酒のつまみである。
「ムートさんいっぱい集めましたぁ」
腕いっぱいに抱えた石ころを私に見せつけて得意げに笑みを零す。
「よくできたね、それをここまで持ってきてくれ」
「はーい♪」
「ゆっくりでいいから、慌てなくて、あっ」
時すでに遅し。
川底にあったであろう小さな穴に足を取られ、前のめりに倒れると石ころを抱え塞がった腕を底につくことができずにそのまま全身を着水させる。
その衝撃でせっかく集めた石ころもばらばらにとっ散らかっていく。
「ふぇぇん」
メディーの声に近くで水を飲んでいたこどもの丸鹿が驚いて顔を上げた。
まったく、ドヤってから注意されてやらかすという見事な三段活用を決めたメディーに頭を抱えて息をつく。
あざといのか天然なのか、それにしてもすぐ舞い上がるのは彼女の癖なのかもしれない。