魔導士ディーラー 慣れないことにチャレンジするそうです①
「とれませんでしたぁ」
うん、なんとなく予感はしてたよ。
数時間前の自信はどこへやら、びしょびしょになった服をしぼりながら泣きべそをかいてこちらに歩いてくる。
「メディーはよく泣くなぁ」
「ご、ごめんなさぁい」
綺麗な髪からは水が滴れていて、小刻みに震えている。陽が沈んだこの時間では少女の身にはこたえるだろう。
それにいろいろ透けた姿のままでいられてはこちらとしても目のやり場に困る。
――仕方ない。
私は魔法石を握りしめてスキルを発動させた。
ステータスオープン、等価交換レベル1を発動。
心配そうにこちらを窺うメディーを制止して私は自らの上着を脱ぐと彼女は体をヒクつかせていた。
その挙動に違和感を覚えながら私はボロボロの衣服を右手に持って、魔力を注入させた。
夕暮れ時の森に現れた光は右手の衣服を包んだまま消え、そのかわり何もない左手には真っ白いローブが握られていた。
「これに着替えるといい、このままでは風邪をひいてしまうよ」
「ふぇ」
間の抜けた声を出しながらもメディーは私の手から白いローブを受け取ってくれた。
全身を包むローブは私の衣服と同じ繊維でつくられてボタンで留めるタイプのようだった。
この等価交換スキルは商人の専門スキルであるから、魔導士ディーラーの私では上手く扱えない。
今だって魔法使いが羽織るような代物を想像したのにメディーに渡せたのはローブはローブでもバスローブに近かった。
彼女は小さく頷きながら巨大樹の陰に走って行った。
薄いシャツ一枚になった私は苦労しておこした火に木の枝を入れて炎の強さを調節する。
清らかな水とキノコや山菜を使った鍋のアクをとりながら、メディーが帰ってくるのを静かに待った。




