魔導士ディーラー 魔法石の加工を披露するようです。
自分は何もできないとぐずりながら自己嫌悪に陥るメディ―を見ていると、まるであの頃の自分を見ているような気持ちになる。
「大丈夫かい?」
何とかなだめようと周囲を眺める。水辺から吹く涼風とその風になびく巨大樹の枝の音、その中で川の底に沈んでいる石がやけに気になったのでひと掴みして彼女の前に差し出した。
「ほらこれ見てごらん」
私は石を両手で包み込み手のひらから魔力を流す。メディ―の目の前で煌々と光り輝いた石ころは手の平の中でじんわり熱くなり頃合いを見て開いて見せた。
「わぁ、きれい」
ただの石は魔力を流されたことで研磨されその中に埋もれていた魔法石の欠片が日光に照らされて輝いていた。
「魔法石は学校でも見たことあるでしょ」
「はいぃ……でももっと大きかったですぅ」
人差し指の第一関節ほどしかない欠片を手に取ったメディ―は首を傾げて言った。
「そりゃそうだ、魔導士や勇者たちが使う魔法石は魔法石の欠片の集合体だからね、実際に魔法石の加工は初めて見ただろう」
「初めてですぅ」
私は機嫌が直ったメディ―に安心しつつ川に手を突っ込んで手ごろな石を拾い上げた。
「やってごらん」
それを彼女の手の中に収めてみせた。その後どうしていいか分からず目をぱちくりするメディーの傍らに腰を下ろして「魔力をゆっくり石ころに流すんだ」とアドバイスをおくった。
私が自分の両手を使って空の手の平を包み込んで見せるとメディーも見よう見まねで石ころを両手で包み込んだ。
「ハァハァ」
上手く魔力を流し込めずに苦戦しているところを私は懐かしい気持ちで見ていた。力んだところでただの石ころは魔法石になってはくれないし、苛々して急激に魔力を流せば粉々に砕けてしまう。
一見簡単そうに見えてこれが意外と難しいのだ。
魔力の大きい、小さいではなく魔法石の加工に大切なのは常に一定の魔力を物体に流し込んでじっくり研磨していくことだ。
「一回息を深く吸い込んで、それから呼吸のリズムを一定にしてごらん」
私はメディーの背中をさすりながら少しずつ彼女に魔力を流す。すると石ころは僅かだが淡く光り始めた。
「光が手のひらから漏れてきましたぁ」
メディーの驚く声を聞いて懐かしさを覚える。魔導士ディーラーになってまだ間もないころは師匠の元で修業したっけ。
「あのぉこれどれくらいで欠片になるのでしょう」
「そうだねぇこのペースだとあと3時間~4時間ってところかな」
「ふぇぇ」
途方もない返事に私は微笑む。
魔導学校では魔法石を使った講義はあっても魔法石の加工を実践するような講義はないはずだ。
今では数秒でできるようになった魔法石の加工だが当時は欠片ひとつ作るのに何時間もかかったなぁ。




