魔導士ディーラー 変化するそうです。
「きみは?」
そう尋ねる私に少女は顔を歪めせて黒い霧に包まれる。その靄からたくさんの怯えた声が聞こえてきて恐怖で耳を塞いだ。
しかし絶え間なく流れる叫び声は聴覚に届いたものではなかった。心に直接届いてきたテレパシーのようだ。
「きみは誰なんだ?」
再度尋ねる。声ではなく、心の中で対話を試みた。
『痛い、痛い、苦しい、苦しい、怖い、怖い……』
少女の声ではない。他の誰かの声が入り混じって話にならない。
『助けて……』
完全に黒い靄に包まれた少女の姿は消え、そのかわりに凶悪なドラゴンがそこに立っていた。
「お待たせディーラくん。こっちはもう動けるよ」
血に濡れた私に、アルジャーノンは軽口をたたく。切り裂かれた傷口がまた開いてきた。
「お前何も見えなかったか?」
「見えたさ、きみが苦しんでいる姿を」
だめだ、会話にならない。私は苦悶の表情を浮かべながらドラゴンを見つめる。
身を引き裂くような苦痛に呻きながら、私は瞼を閉じてもう一度開けた。
『助けて』
あの少女がいる。
「ディーラーくん、その目どうした?」
攻撃に転じようと準備をしていたアルジャーノンに魔法石を向けられた。
反射して映った二つの瞳の瞳孔が十字架の紋章に変わっていたのだ。




