魔導士ディーラー 美少女を泣かせてしまったそうです。
「た、助かりましたぁ」
地上に出た少女は半べそをかきながら私に頭を下げた。
愛想笑いを決めながら頭を上げるようにお願いした私は少女に向き合って座るよう地面を叩いた。
「あ、はいここに座ればいいですかぁ」
そうだと頷いて少女はようやく地面に腰を下ろした。
「昨日からいろいろ災難だったね、えっと……きみ名前は?」
「私の名前ですかぁ? えっとぉメ、メディーですぅ」
覇気のない返答に私はますます困惑したが、そんなところでいちいち突っ込んでいては話が進まないと判断して軽く聞き流した。
すると自らをメディ―と名乗った少女は膝を抱えてこちらの動きを窺っていた。
まぁなんだその……年端もいかない少女に面と向かって見つめられたら次の言葉を紡ぐのに時間がかかる。そういえばこの娘の顔をしっかりと見るのはこれが初めてな気がする。
「な、なんでしょう?」
「いや別に」
昨日までは天性であろうどんくささと油断すれば一言突っ込みたくなる言動に気を取られてていたが、それがどうだろう。
艶のあるショートカットの前髪は自然に分かれていて右側を収縮した魔法の杖をヘアピン代わりにつけている。愛くるしい丸顔、思わず眠いの?
と聞いてしまいたくなるほどとろんとたれた二重まぶたに長いまつげはよく似合っている。背は同世代の女の子と比べたら少し低く、顔立ちも体つきも幼く感じたがこれだけは間違いなく言える。あと数年もすればオスに分類される全ての人類を魅了するであろう美少女の原石だった。
そんなことを脳内で永遠のごとく考え、すけべ心でメディ―の数年後を想像して楽しんでいたわけだが、彼女は彼女でこの沈黙に我慢できなくなったようで、「あなたは?」と小さな声でつぶやいた。
「武笠徹」
「む……と?」
メディ―の困惑する顔を見て私はしまったと思った。とうに捨てた前の世界の名前を口走ってしまうなんてここ最近なかったことだ。やれやれ今朝見た変な夢のせいだな。
「いや、ムートでいい……みんなからそう呼ばれているから」
「ムート……さん?」
「そうだよメディ―」
誤魔化して笑うとメディ―もわずかだが笑みを零す。私は昨日まで感じていた魔物の視線がないことを確認しながら自己紹介で場が和んだことで疑問に思ったことを彼女に訊ねてみようと思った。
「メディ―きみにはいろいろ聴きたいことがあるんだ、言える範囲でいいから答えてくれないか?」
「はぁぃ」
メディ―は空に浮いてしまうようなから返事をして、でも体だけはしっかり聞く態勢になっていた。
まず真っ先に聞きたいのはどうしてメディ―が黒魔導士でも習得を諦めるほど難易度が高い回復魔法、治癒爆発を扱うことが出来たのかということだ。
「そう言われてもぉ、私は学校で学ぶ前からあの魔法は扱うことができたのでわかりませぇん」
私の問いに彼女は小首を傾げながらそう言ったのだ。
「そんなバカな、あんな難しい回復魔法を最初からだなんて信じられない」
驚いた私は早口で否定した。するとメディ―は怒られたと思ったのだろうか急におどおどしだす。
「す、すみませぇん、でも私他の魔法は全然ダメでぇ、上手く魔力をコントロールできなくてよく怒られたし、たくさん補習をうけましたぁ、でも結局出来なくて卒業する前に覚えられたのは『手当て』だけでぇ……こんな役に立たない魔導士死んだほうがいいですよねぇ」
「おい死んだほうがいいなんて軽々しく言うなよ、あっ」
死という言葉に過剰反応してしまった。明らかに強い口調だと気が付いた時にはメディ―の顔は歪になって、
「ぐすん……うぅっすみませぇん、もう余計なことを言いませんからぁ……怒らないでぇ」
懇願するように泣かれてしまった。
「いやぁその今のは決して怒っているわけではなくて、そのぉ……」
あぁもうどうしたらいいの? 誰かセンチメンタル少女の取り扱い方を教えてください。




