魔導士ディーラー 戦況を見守るそうです。
しかしその稚拙な攻撃はドラゴンの怒りを買うのに充分だった。
ドラゴンの咆哮が止み、その瞳に宿る闇は輝きを失い我を忘れたように翼をふるわせる。
攻撃をしかけるでもなくはちゃめちゃに、それこそだだをこねる子どものように癇癪を起し、結界の壁に身体をぶつけはじめた。
「うっ」
魔力のコントロールが乱れる。この空間は戦闘用のものではない。耐久性はそれほど強くない。
「大丈夫かい?」
心配そうに尋ねてきたが、その表情がアイリスで飄々としているものだからまったくもって腹が立つ。
「大丈夫じゃない、知剣の概念ならなんとかしろ」
動かない右腕に鞭をうって左手で合掌する私は声を震わせながらイライラを募らせる。
魔導士に魔力を供給しないでいいぶん結界の強度はそれなりに保つことができるがあんな調子でがんがんとぶつけられたらいつ崩壊しても不思議ではない。
「わかったよ、じゃあ引き続きよろしく」
人の気も知らないでアルジャーノンは満面の笑みで言う。
再び向かい合い攻撃を放ったアルジャーノンはドラゴンの注目を集め地面をえぐるような突進に一歩も引かなかった。
「そうこなくちゃな」
口元が緩む。楽しそうに笑みを浮かべた彼の瞳には希望に似た闘志が宿っていた。
「次もくるぞ!」
「分かっているさ」
アルジャーノンはありとあらゆる攻撃をぎりぎりで交わし、最小限の詠唱で最低限の攻撃魔法を確実にヒットさせ、小さなダメージを蓄積させていく。
ボクシングで言う、ヒットアンドアウェイ戦法。それは果てしなく地道で気の遠くなる作業だが、戦力差を着実に埋めるには有効な作戦だ。
どんなに強力な一撃も当たらなければ意味をなさない。アルジャーノンは魔法石を巧みに使いスピードを上げていくとドラゴンの身体を利用して跳躍し、その眼を翻弄する。
いかにドラゴンとはいえ、視界すれすれを残像のごとく移動するアルジャーノンをとらえることは難しい。
苛立ちに我を忘れ大地を踏み鳴らしてもそこにアルジャーノンはいないのだ。




